第86話お花見

 クラスのみんなでお花見をすることになった。


 決行は明日。


 くじ引きの結果、わたしは「場所取り」をすることになった。


 この役はしんどい……。


 なんかテンション下がる。


 しかも無口なあなたと当番をすることになった。


 ……はぁ、参加するのやめようかな。


 それから現場に行ってみると、人の多さに驚いた。


 どこもかしこも人、人、人!


 こんなので明日場所を確保できるのだろうか?


 平日でこの人だかりだと不安になる。


 わたしが訝しんでいる横で、あなたは呑気に花びらを眺めていた。


 そんなことしてる余裕ないよ。


「どこかいいとこ知らない?」と聞くと、あなたは相変わらず無表情のままだった。


 ――が、しばらく考えたあと、「こっち」とわたしを招く。


 ついて行くと、お花見スポットとは関係ない場所についた。


 竹林を抜けた奥にぽつんと桜の木が立っている。


 まるで外界から遊離されたようにひっそりと、音のない空間で花びらを散らすその姿に思わず見惚れてしまった。


 なんか感動……こんな穴場があったなんて。


 きっとみんなも喜んでくれるだろう。


 しかし当日に雨が降った。


 お花見は中止。


 広場の桜もみんな散ってしまい、残念な気持ちだけがあとに残った。


 せっかく揃えた道具も無駄になる。


 水溜まりに浮く花びらを眺めていると、あなたは道具を持ってわたしの手を引いた。


 やってきたのは竹林の向こう、例のお花見スポットだ。

 

 囲うように竹林に守られ、桜は散っていなかったのだ。


 シートを敷いて二人だけのお花見が始まる。

 

 桜に微笑むあなたの横顔が、雲間の光に照らされる。

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