第85話無人島になにを持っていく?

「無人島に行くなら何を持っていく?」という質問は僕も何回かされたことがある。


 その度に「本」とか「水」とか適当に答えるけど、実際何を持っていきたいのかよくわからない。


 助かることを重視するなら、「絶対に連絡のできる携帯電話」とかでもいいのかもしれないけど、魔法のランプとかにしておいたほうがおもしろいかな?


「わたしはあなたを持っていくね!」


 いきなり答えたのは同じクラスの君だった。


 教室の前で僕の行く手を阻み、腕を組んでドヤ顔を決めている。


 なにを言っているんだと思っていたそのとき、いきなり僕の頭に袋を被せてきた。


 真っ暗闇でなにも見えない。


 恐怖に怯えていると、数時間後に袋を外された。


 そして薄っすら瞼を開けると、視界の前には青い海と穏やかな水平線が広がっていた。

 

 そこは無人島だった……。


 この瞬間、サバイバル生活の幕が上がる。


 ――が、それからは苦労の連続だった。


 食料がないから森で木の実を探したり、魚を獲ろうと銛を突いて逃げられたり、真水を確保するために簡易的な装置を作ったり、火を焚くために湿っていない木を探したりした。


 けれど、どれもうまくいかなくて二人は餓死寸前に追い込まれる。


 すると君は爛々と瞳を輝かせ、じゅるりと口元を拭った。


「あなたを持ってきた甲斐があったよ」


 ――そう、万が一の時、僕を食べるために連れてきたのだ。


 動けなくなった僕にかぶりつく瞬間――ハッと思考が現実に引き戻される。

 

 僕は今、無人島に何を持っていくか質問を受けていた最中だった。


 しばらく考えた後、君の顔を見てこう答える。


「食料」と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る