第84話まっすぐに。

「男子は子供っぽい」っていう会話を、何度か耳にした。


 高校生になった今、わたしはこの言葉をあなたに贈りたい。


 それは、思いつきですごいことを言っていたからだ。


「俺は世界を旅して、そして感じたことを本にする!」


 そう豪語するあなたは、やる気満々だ。


 このセリフを、一日に何度も耳にする。


 昼休みや体育の授業中に、友達によく話しているのを見かけた。


 だけどみんなの反応は、あっさりとしたものだ。


「え、お金あるの?」とか「あんたにはムリっしょ」とか、そんなかんじだ。


 あなたの言動は、口先だけに見えるのかもしれない。


 確かに、みんなの気持ちもわかる。


 でも、あなたはそれらのセリフに、瞳を輝かせた。

 

 無理を実現できたときこそ、本物だと証明される。


 だから燃える。


 自分は主人公になる! って。


 そう言い張ると、みんなから失笑を買っていた。


 それでも堂々としているあなたを見ていると、小学生のころを思い出す。


 あのとき、公園の滑り台の上で叫んでいたっけ。


「おれはすごいヤツになる!」って。


 ブレることなく遠くを見つめて、澄んだ瞳で、どこまでも真っ直ぐで。

 

 そんな愚直なところが眩しくて――。


 ――――


 卒業式の日、あなたはバックパック一つで旅立っていった。


 きっと大変だよって言ったら、そのほうがやりがいがあっていいと親指を立てた。


 相変わらずだ。


 わたしはその背中に手を振りながら、決意する。

 

 よし、周りの目は気にせずに、書きかけの小説、完成させよう。

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