第81話腐れ縁の君に

 僕は朝が苦手だ。


 眠いのもそうだけど、通学路で必ずといっていいほど君が挨拶をしてくるからだ。


「おはよう!」と言ってバシンと背中を叩いてくる。


 女の子とは思えないほど力が強い。


 背中がヒリヒリして目が覚めた。


 昔っからそうだ。


 性格がガサツというか、自分のことしか考えていないというような身の振る舞い方が目立つ。


 お昼に隣から弁当のおかずを取っていったり、本を読むのが好きな僕を勝手に図書委員に推薦したり、用事があるからと言って掃除当番を押し付けられたこともあった。

 

 ほんとイヤなやつだ。


 そんなある日、陸上部の君が放課後の教室に残っているのを見かけた。


 机にうつ伏せになっている姿は、いつもの溌剌とした雰囲気とはほど遠い。


 なんで部活に行かないのか理由を聞いても「なんでもない」の一点張り。


 僕は薄々理由に気付いていた。

 

 部活の練習で足を怪我したのだ。


 君はそのことを僕に黙っていた。


 ほんと……昔っからそうだ。


 お昼の弁当は僕の嫌いなモノを取ってくれるし、図書室に推薦したのだって、そこに当時僕の好きな人が在籍していたのを知っていたからだし、掃除当番を押し付けたのも、その好きな人と教室で二人きりにさせるためだって知っている。


 わざわざ自分がガサツなフリをして……君は本当に自分のことしか考えていない。


 そんなの、納得いかない!


 だから背中を突き出してこう言った。


 いつもみたいにバシンってやれよ! って。


 目を丸くした後、君は「バカじゃん」と笑いながら涙を流した。


 急に気まずくなって僕は苦笑いを挟む。


 なんだよそれ。


 ほんとイヤなやつだな


 ――気付けば僕も笑っていた。

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