第80話春のうららら

 季節は春。


 文芸部に所属しているわたしは、今日も部室でのんびりと本を読んでいた。


 窓から流れ込む春の陽気が気持ちいい。


 つい、うとうとと船を漕いでしまう。


 ちょうどページの間に桜の花びらが舞い落ちたとき、部長が手を叩いた音で目が覚めた。


「今日は掌編を提出してもらう」


 そう言いながら窓の外を指差す部長。


 テーマは「春」にするらしい。


 今日中に提出しないといけないようなので、わたしはぼんやりした頭を覚ますために背伸びする。


 あくびを噛み殺しながら、とりあえず窓の外に視線を巡らせた。


「春ねぇ……」


 のどかな風景を見ていると、また眠たくなってくる。


 遠くで野球部がボールを打ち上げた音が響き、空にはゆっくりと雲が流れていた。


 ひらひらと黄色い蝶が目の前を横切って、気付いたら瞼が重くなっていく。


「進捗はどうだ?」


 部長の圧のある声に「寝てません」とヨダレを拭う。


 そんなにせっつかれても文章は出てこない。


 プレッシャーを感じながらも、わたしは頭を捻る。


 そういえば部長はもうできたのだろうか?


 気になってノートをチラ見してみると……。


 その中身は真っ白だった。


 なぁんだ、わたしと一緒だ。


 安心したらまた眠くなってきた。


 ちょっと窓際の机でうつ伏せになろっと。


 そしたら部長がやってきて、


「寝てる場合じゃないだろ」


 と、言う。


 わたしは「部長も一緒にどうですか?」と眠たげな瞳を向けた。


 ちょっと昼寝したらいい文章が書けるかもしれない。


 そう思ってのことだったが、部長は「ば、バカを言うなよ!」と狼狽えていた。


 なに赤くなっているんだろう?


 さぁ、春のせいにして寝てしまいましょう!


 グゥ……。

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