第73話なんでもないこと

 学校が終わっていつものルートで帰っていると、後ろから君が追っかけてきた。


 バシっと背中を叩いてこんなことを言ってくる。


「いつもと違うルートで帰らない?」と。

 

 確かにマンネリ化した日常に飽きていたところだ。


 帰り道を変えるだけでも刺激を得ることができるかもしれない。


 そんな思いつきから僕たちは行動に出る。


 いつも乗らないバスに乗り、どういうわけか隣町まで来てしまった。

 

 もはや帰るというより遊びに行ったレベル。

 

 ……まぁ、いい。

 

 ここからどうやって帰るかが重要だ。


 僕たちは馴染みのない町をしばらく歩く。

 

 漠然とした計画ゆえに、どこをどう歩くかなんて決めていない。

 

 帰り道を通って無事帰宅できるかも怪しいところ。

 

 せっかく来たことだし、できれば何か印象に残ることがしたい。

 

 すると君は、正面に見える肉屋を指してこんなことを言う。


「あれが食べたい」


 僕たちはできたてのコロッケを買ってベンチに座った。


 なんというか、こうやって並んで食べるのは初めてだ。


 ふと隣を見ると、君はとてもおいしそうにコロッケを食べている。


 ほっぺに衣をつけたまま幸せそうにニヤけていた。


 僕もつられて衣にかぶりつく。


 ああ、おいしい。


 サクっとして肉汁が口の中にあふれる。


 談笑しながら、いつの間にか日は暮れていった――。


 結局買い食いしただけの一日。


 でも、それが結構楽しかった。


 些細な出来事も日常のスパイスになるみたい。


 またふらっと別の町でも覗いてみようかな……。


「ところでさ――」


 すっかり忘れるところだったけど。


 僕が立て替えたコロッケ代、あとでちゃんと貰うからね。

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