第71話魔法と、逃げる。

 君が魔法を使えるようになったと聞き、僕はさっそく真偽を確かめることにした。


 呼び出された君の家に向かい、二階の部屋に招かれる。


 単刀直入に「魔法を見せて」と言うと、どういうわけか君が大きくなっていった。


 な、なんだこれ?


 というよりも、部屋全体がやけに広くなっているような気がする……。


「やた! 成功したよ!」


 そう言って君は嬉しそうに跳ねていた。


 意味が分からずに、ふと壁際の鏡に目を向ける。


 するとそこには真っ黒な身体をしたネコがいた。


 耳を動かしたり手を上げたり、コミカルに動いている。


 僕と同じ動きをマネするなんて、なかなか器用なネコだな……。


 …………。


 ――ってコレ僕じゃないか!


 え、なんで!?


 どうしてネコになっちゃったの!?


 動揺する僕をよそに、君は不敵な笑みを浮かべてながら僕を抱きかかえる。

 

 どうやら魔法というのは、相手を変身させる力らしい。


 カブト虫かネコにするかで迷った挙句、ネコにしたんだとか。


 な、なんだよその二択……。


 魔法を使って疲れたのか、君はネコになった僕を抱いたままベッドに入って眠ってしまった。


 人間に戻れない僕は、そのまましばらくじっとする。


 すると君は寝言を言いはじめた。


 なにかの名前を呼んでいるのだが、どうもそれが逃げた飼いネコの名前らしい。


 よく見ると君の目には涙が浮かんでいる。


「…………」


 僕はフンと鼻を鳴らす。


 スキを見て逃げるつもりだったけど、仕方ないからしばらく身体を貸してあげることにした。


 ――その翌日。


 君の飼いネコは戻ってきた。


 僕も元の身体にもどり、いつも通りの生活を送る。


 ただ、一つきになることがあった。


 君の家から逃げたのは、どうもネコだけではないらしい。


 なんと飼育していたカブト虫が、フタを外して逃げ出したのだという。


「ねぇねぇ、あのさぁ~」


 君のねだるような視線を察し、僕は背を向ける。


「樹液のご飯は勘弁だよ」

 

 そう告げて、とりあえずこの場から逃げ出した――。

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