第70話また一緒になれたら――

 今日でわたしは卒業だ。


 三年間過ごしたこの教室ともお別れ。


 高校生活も振り返ればあっという間だったような気がする。


 式が終了したあと、友達と雑談を交わして解散。


 桜が舞う坂道を下りながら、ゆっくり流れる雲を見上げてすーっと息を吸い込んだ。


「……あ、しまった……」


 わたしとしたことが、すごく大事なことを忘れていた。


 放課後あなたの制服についた第二ボタンをもらおうと思っていたんだった。


 わたしのお母さんが学生のころは、好きな人の第二ボタンを貰うことが流行りだったらしい。


 そんな話を聞かされていたわたしは、いつしか好きな人の第二ボタンを貰いたいと思うようになっていた。


 だけど友達とのお喋りに夢中になってしまい、ボタンを貰うことを忘れてしまう……。


 ああ、もう帰っちゃったのかな?


 踵を返すと、向こうからあなたが歩いてくるのが見えた。


 なんていいタイミングだろうと思いながら、「お~い!」と手を振ってみる。

 

 するとあなたは、卒業証書を片手に手を振り返してきた。


 わたしは息を切らしながら尋ねる。


「第二ボタンのことなんだけど……」


 言いながらハッとする。


 あなたのボタンは、第二どころか全部なくなっていることに気付いた。


「そっか……」


 気まずそうに苦笑いするわたし。


 なんとなく女子に囲まれているあなたの姿が目に浮かぶ。


 やっぱりけっこうモテるんだね……。


 そんなことを思いながら、わたしは諦めて踵を返そうとした。


 するとあなたは、


「待って!」


 と言ってわたしを引き止める。


「最後なんだし一緒に帰ろう!」


 ……そんなことを言ってきた。


 わたしは少し考えたあとに、


「ううん。それはいいや」


 と、丁重にお断りした。


 あなたは少し戸惑っているようだけど、それにはちゃんと理由がある。


「だって、来月から一緒の大学行くんだし?」


 そう、わたしたちは同じ進路をたどっていたからだ。


 一緒に帰ることは、これからでもできる。


 ――――。


 ――そして月日は経ち、キャンパス生活にも慣れたころ。


 わたしは食堂にあなたを誘い、腕を掴む。


 「ボタンを貰い損ねた代わりに、なにか奢ってよ?」


 そんなことを言ったりして、なんだかんだ楽しんでいる日々だ。

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