第69話夢は落ちない

「ハァ……ハァ……!」


 暗がりの中、ひとけのない道を僕は走っていた。


 これは健康のためにランニングをしているわけじゃあない。


 君に追っかけられているから、逃げているんだ。


 脇腹を押さえながら、途中で何度も後ろに目を配る。


 しかし君を突き放すことは難しい。


 今も手に包丁を持ったまま、不敵な笑みを浮かべてこちらに迫っている。


「ぼくが……なにをしたって言うんだ……」


 走りながら呟いて、追われる原因を考える。


 暗がりで包丁を持って追っかけるなんて、よほど恨みをもっているに違いない。


 けれど君にひどいことをした覚えはないし、考えたところでそれらしい原因を見つけることはできなかった。


 あるいは僕がひどいことをしたのだろうか?


 もしそうだとすれば、僕は殺されて当然なのだろうか?


 それとも時間の限り償いというものをするべきなのだろうか?


 いろんな考えがぐるぐると渦を巻いて、目の前が霞んできた。


 そろそろ体力も限界だ。


 ここらへんが年貢の納め時かもしれない……。


 街灯の下で躓いた僕は、ぐったりとその場で仰向けになった。


 もう起き上がる気力も残っていない僕を見下ろして、君はニヤリと笑っている。


 最期に追いかける理由を聞かせてほしいと頼むと、君はこう答えた。


 僕のことが好きなのだと。


 だから一緒に心中したいと言う。


 振り下ろされた包丁が刺さり、僕の視界が真っ暗になった。


 ――――。


 ――そんな夢を見るのもこれで五回目だ。


 君から追われるサバイバルは、一体いつになったら終わるのだろう?

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