第68話サプライズと先手の指輪

 キャンパスの帰りのことだ。


 あなたが手作りの料理をご馳走してくれると言った。


 なのであなたの自宅にお邪魔することになる。


 あなたの家は初めてなので、なんだかそわそわした。


 玄関で靴を脱ぐときに、焦って転びそうになったし。


 そして招かれるままに部屋のドアを潜る。


「んじゃ始めようか」


 部屋のテーブルには水と白い粉。


 そしてたくさんの具材が並んであった。


 中央には窪みのある黒い鉄板が置かれている。


 つまり、たこ焼きを作るつもりらしい。


「じゃんじゃん焼いてよ」と、ご機嫌のあなたは、水で溶いた粉をアツアツの鉄板に流し込む。


 具材を入れたあとに焼き具合を見極めて、絶妙なタイミングでピックの先端を挿入した。


 くるくると踊るようにひっくり返るたこ焼きは、ほどよい焼き目を付けて香ばしい香りを漂わせる。


 あっという間にソースと青のりを散らした丸い物体は、お皿の上で上機嫌な湯気を立ち上らせた。


「いただきます」


 モグモグ……。


 うん、おいしい。


 普段焼き慣れているのか、「だろ?」と笑いながら続きを焼いてくれる。


 と、口の中でコリっとした歯ごたえがあった。


 一瞬「ん?」という表情になったわたしを見てあなたは言う。


「それ、指輪入ってるから」と。


 ……え?


 わたしは慌てて吐き出そうとするが、「冗談だよ」と楽しそうに笑っていた。


 シンプルに中身は軟骨だったけど、なんか一瞬焦っちゃった……。


 ホッとした表情を浮かべるも、実はたこ焼きの中に指輪を入れるというサプライズはわたしも計画していた。


 とにかくびっくりしたあなたの顔が見たいから今度実行しようとしてたのに、なんだか先にやられてしまった気分……。


 再びたこ焼きを頬張りながらも、わたしはバッグに忍ばせているリングを、そっと隠すように押し込めた。

 

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