第67話文芸部のサークルクラッシャー

 文芸部に小説を寄稿するにあたって、僕はとんでもないミスを犯した。


 個人的に書きしたためた恋愛小説。


 それを回収に来た君に渡してしまったのだ。


 マズイのはその内容にある。


 なぜならヒロインが君そのものだからだ!


「きゃーーっ!」


 ――廊下から君の悲鳴が聞こえる。


 ろくでもない予感と共に、僕は部室から飛び出した。


 そこには撒き散らされた原稿と顔を伏せる君の姿。


 ほらみろ! やっぱりこうなった!


「あの、ち、ちがうんだ!」


 浮気をしたカレシみたいな言い回しで僕は君を宥める。


 あんな原稿を見られたのだから無理もない。


 けっこう過激な描写も書いてるし、悲鳴も上げたくなるだろう。


 どうする?


 顔を赤らめたまま、君はこっちを向いてくれない!


「あの、だからこれは――」


 僕は君の持っている原稿を取り上げようとして、目を瞠る。


 しかし、よく見るとこれは僕の書いた原稿じゃない。


 一年生の別の男子のものだった。


 しかも、物語形式ではあるが、内容としてはまるっきり君に宛てたラブレターだった。


 僕と同じかよ!


「なにがあった!?」


 そうしていると別の教室から二年生の男子が出てきた。


 なんとこの人も、君にラブレター小説を書いたという。


 さらに確認していくと、その他の部員も君に告白めいた小説を書いていることがわかった。


 まさかこれほどライバルがいたとは……。


 僕はこの瞬間から、少し気持ちを引き締めることにする。


 ――そして次の日。


 文芸部では君に対するアピール合戦が始まった。


 もはや文芸部の小説は、君に宛てた純粋なラブレターでしかない。


 君は原稿をチェックするために必ず目を通していくのだが、そのたびに顔が赤くなって鼻にティッシュを当てているので、なんか大変そうだなと思う。

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