第66話七年後の空の景色

 風の強い日はやる気がなくて、ただ教室の窓を開けてぼーっと外を眺めている。


 そんな放課後、わたしにあなたが声をかけてきた。


「一緒に帰らない?」と言うが、今日は一人の気分だ。


 悪いけど七年後にまた誘ってほしい。


 そんな冗談を言ったら「長すぎだろ」とツッコまれた。


 仕方ないな……。


 わたしは髪の毛を耳にかけながら、窓を閉める。

 

 とりあえず今日だけなら付き合ってあげるよ。


 そうしてわたしたちは帰路につく。


 すると、あなたは帰り道と違うコースに向かっていった。


 そっちは丘の上だし、別に用事はない。


 あるのは売りに出している狭い空き地があるだけだ。


 それでもあなたは執拗に食い下がる。


「いいからこっち!」って。


 わたしの背中を押してくる。

 

 仕方ないから言う通りにした。


「今日みたいな日は最高なんだ」――そう言いながら辿り着いた丘の上。


 ロープが張られた売地に忍び込んで、わたしはあなたのあとについていく。


 そこは街の景色が一望できる場所だった。


 街の向こうには海。


 水平線と空の境目がくっきり見渡せて、光の反射で海面がきらきらと輝いている。


 風が強いせいか雲が少なくて、より一層空が青く見えた。


 そんな景色を見ながら君は言う。


「いつか宇宙飛行士になる!」って。


 澄んだ瞳に大空を映しながら、胸を張っていた。


 すごいやる気だな。


 ま、頑張りなよ。


 わたしはゆるくエールを送った。


 ――――


 それから七年後。


 この空き地には家が建つ。


 大きなお腹を撫でながら、わたしは窓を開けた。


 大空に飛び立つロケットを眺めながら、手を振ってエールを送る。


「いってらっしゃい」

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