第65話少しずつ作る既成事実

 雨の日はやる気が出ない。


 なんとなくダラダラしてしまうのが僕の性格だ。


 だからこうして休みの日なんかは、部屋にこもって溶けたアイスみたいに寝そべっている。

 

 そうしているとピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。


 一体誰だろう、宅配便かな?


 ガチャリとドアを開けると、雨に濡れた君が立っていた。


 女子陸上部に所属している君が僕になんの用だろう?


 聞いてみると、雨でグラウンドが使えなくなったから、なんとなく来たという。


 なんとなくって……。


 そして濡れた髪を耳元にかけながらふふっと笑っていた。


「んじゃ、そういうことで!」


 そう言うなり玄関で靴を脱ぐ君。


 僕の許可に関係なく二階の自室へと上がっていった。


 わわわ、床が濡れちゃうって!


 僕は浴室からタオルを持ってきて、慌てて彼女の頭に被せた。


 すると君は、「わわっ!」と言って水を拭き取っていく。

 

 とりあえず雨が止んだら帰ってもらおう。


 そんなことを思いながら床に横になろうとしたそのときだ。

 

 突然視界が真っ暗になった。


「おわっ!?」


 どうやら君が悪ふざけでタオルを被せてきたようだ。


「お礼に拭いてあげるよ」


 そんなこと言ってるけど、そのタオルで拭いたら僕の顔は濡れてしまう!


 僕はケラケラ笑っている君にジト目を向けた。


 どうも僕をからかうのが楽しいらしい。


 僕はタオルを取って、浴室のカゴに持っていく。

 

 そこでふと、いい匂いに気が付いた。

 

 タオルについている君のシャンプーの香りだ。


 僕はなんとなくタオルに鼻を近づけてしまう。

 

 それを背後で見ていた君は、ニヤニヤと笑って濡れたシャツを僕に被せた――。

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