第64話トマトジュースと指輪

 あなたと付き合い出してから二年が経つ。


 部屋でわたしがトマトジュースを飲んでいると、横からあなたが語りかけてきた。


「その飲み方おいしいの?」って。


 どんな飲み方かというと、無塩トマトジュースに砂糖を入れる飲み方だ。


 これがけっこうイケるんだけど、塩派のあなたは、この飲み方がイヤみたい。


「塩だ」「砂糖だ」と言い合っているうちに、いつの間にか飲み方の議論が始まってしまった。


「塩は昔っからある歴史の深い飲み方だ」とか「デザート感覚で飲みやすい砂糖は魅力的」とか、互いに言いたいことを主張する。


 それが長い間続いているうちに、なんだか内容がおかしくなってきた。


「細かいことを言いすぎる」とか「逆にそっちは大雑把すぎる」とか、トマトジュースの話題はどこへいった……。


 こんなことを繰り返しているものだから、なんかだんだん疲れてきた。

 

 身体だけでなく心まで。


 昔はこんなケンカもなかったのにな――とか思ったりして、ため息が漏れる。


 とりあえず一旦休憩だ。


 喉が渇いたので冷蔵庫からトマトジュースを取り出す。


 二つのコップに注いで、互いに飲む。


 味は無塩。


 何も入っていないまっさらな味を、舌の上で転がす。


 純粋でストレートな風味が、ふと昔の気持ちを思い起こさせた。


「……ちょっと砂糖入れてみるか」


「……たまには塩もいいかもね」


 二人は互いのコップを飲み比べて、少しの言葉を交わす。


 些細な言い合いもあるけれど、それも付き合っていたら当たり前か。


 言いたいコト言ってしまえば、またいつものように戻ってるんだよね。


 ――それから一年後。


 あなたはトマトみたいに顔を赤らめて、わたしにプロポーズした。

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