第61話ケンカするフェアリー

 ある日、君が炎になってしまった。


 身体全身が生命力に満ちた紅い色をして、心臓の鼓動に合わせて色を変化させている。


 外側にいくほど色が濃く、内側にいくほどオレンジがかっていた。


 どうやら学校の裏に祠があって、そこに祀られた炎の精霊に取り憑かれたようだ。

 

 どうしよう、困ったことになった。


 何が困ったかというと、今まで通りデートができなくなってしまったことだ。


 手を繋げば火傷するし、カフェでアイスを頼めば溶けてしまう。


 今まで通りの生活が送れないのはイヤだ。


 隣で頭を抱える君を見て、僕は身体を治す方法を探すことに決めた。


 図書室で調べた結果、この近くに水の精霊を祀った祠があるらしい。


 なんでもその精霊から力を借りれば、炎の精霊は鎮まるという。


 情報をもとに辿り着いた山の中、木々に囲まれた湖の中心に小さな陸地があった。

 

 よく見ると祠がある。

 

 ついに来たぞ。


「なんの用だ?」


 ――祠を調べるなり、水の精霊が現れた。


 炎になった彼女を戻してほしいと頼んだが、ぶすくれた様子で頬を膨らます精霊。


 話を聞いてみると、水の精霊は大昔に炎の精霊と付き合っていたらしい。


 しかも、ケンカをして別れたのだとか。


 そのことで炎の精霊には会いたくないという。


 けど、僕としては会ってくれないと困る。


 話し合いの結果。


 水の精霊は僕の身体に取り憑いて、相手側の様子を観察すると言い出した。


 炎の精霊が昔のことを反省していることが分かれば、君をもとに戻してくれるのだという。


 ……仕方ない。


 僕はこの案を呑んだ。


 それからというもの、二人の精霊は毎日口喧嘩をしている。


 だが、その様子がとても生き生きしているように見えて、なんだか羨ましく思えてきた僕だった。

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