第59話再生する

 僕はスマホ片手にぼーっと動画を観ていた。


 毎日色んな動画がUPされるから、何時間でもヒマを潰せる。


 ベッドの上で横になったまま世界中のおもしろい動画にのめり込んでいった。

 

 その中でも最近よく観ているのが君の動画だ。

 

 色んな企画を考えて自分で実行するという内容だが、そのどれもが身体を張ったものばかりだ。


 ワニの歯を磨くとか、山頂で綱渡りをするとか、サメと戦ってみたとか、命を落としてもおかしくないものばかり。


 実際、何度か死にかけているみたいだけど、それでも君は動画を撮ることをやめようとはしない。


 そして割に合わないのは、これだけ身体を張っているのに再生回数が伸びないことだ。


 おそらく観ているのは僕くらいなのでは?


 そんな日が何日も続き、ある日君は大怪我をすることになる。

 

 病院に運ばれるところまでしっかり動画に収められており、それ以降は動画がUPされることはなかった。


 その日から退屈になった僕は、君の過去動画を順番に観ていくことにした。

 

 すると身体を張った動画にメッセージが込められていることに気付く。


「早く帰ってきてね!」


 ――そう伝えようとしている君を観て、僕の胸はざわついて苦しくなった。

 

 動画を停止して天井を眺める。

 

 清浄なくらい真っ白な部屋がやけに広く感じた。

 

 そう、僕は入院している。


 以前、二人で動画を撮影していたところ、怪我をしてこうなった。


 相方をこのまま一人にできない。


 僕はベッドから起き上がると、一つ心に決めた。

 

 ちゃんとリハビリを頑張ってこの病院を出よう。

 

 そして動画に復帰して、君に「ただいま」と言う。

 

 そう心に決めた。


 ――――


 それから一年後。

 

 君の動画は相方との掛け合いがウケて、再生回数が爆発的に伸びることになる。

 

 未だに怪我は絶えないが、そのたびに僕たちは再生する。

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