第57話愛でる

「あなたの髪の毛をちょうだい」


 昨日、君が言ったことが頭から離れない。


 僕の髪の毛をくれ?


 始めは意味がわからなかった。


 どうやら好きな人の髪の毛をコレクションしているらしい。


 つまり突然の告白……というか独特の趣味だな……。


「えと、これでよければ」


 僕は制服に引っ掛かった髪の毛を一本掴み、差し出す。


 君は花柄のハンカチを広げて、「ありがとう」と言った。


 そのまま髪の毛を包んで、持ち帰る。


 その翌日からだ。

 

 夜中におかしな夢ばかり見るせいで寝れなくなった。


 毎日釘で刺されたり、炎に焼かれる夢だ。


 なんでこんなことに……。


 思い当たる節は一つ、君が何かしてるんじゃないか?


 聞くところによると君はオカルトに精通しているらしい。


 あの髪の毛を使って、僕を呪い殺そうとしているのだとしたら――。


「やめてくれーっ!」


 僕はオカルト研に乗り込んだ。


 そこで髪の毛に頬ずりする君を発見。


 悪夢のことを伝えると、顔を赤くして身を捩っていた。


「こ、この呪いに三カ月耐えれば、私たちは結ばれるの!」


 ――嬉々としてそんなことを言う。

 

 ある意味儀式みたいなものだ。


 ただし僕を殺そうとしているのではなく、共に生きるため。


 そんな一方的な愛のために君は髪の毛を愛でる。


 その愚直な姿が少し魅力的に思えてしまい、それ以上言葉をかけることができなかった。


 ……僕もちょっとおかしいのかな……。


 今でも夢にうなされるけど、愛と呪いは紙一重なのかもしれないと痛感する日々だ。

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