第55話身の丈と、僕の影

 学校から帰っている時にふと思う。


 誰かが後ろからついてきている気がした。


 立ち止まってゆっくりと振り返ってみる。


 ――しかし、そこには誰もいない。


『どこ見てるんだ?』


 ――その声に下を向くと、僕の影が喋っている。


 自分の影が意思を持ってしまった。


 なんだコイツ、僕をどうするつもりだ?


 その日から僕は、自分の影とよく話をするようになった。


 最初は気味悪がって怯えていたけど、案外コイツはいいやつだ。


 僕に危害を加えるようなことは企んじゃいない。


 でも少しお節介なヤツかも。


 自分の影だけあって、僕の好きな相手が誰なのかも知っているからだ。


 ある日影は、告白してみてはどうかと提案してきた。


 しかし僕は伏し目がちに首を振る。


 こちらが好きでも向こうがどうだかわからないからだ。


 身の丈以上のことをしないのが僕のポリシー。


 今まで通り、ただの友達としてお話しできればそれでいい。


 ところが影は『そんなこと言うなって!』と、僕を強引にあの子の元へと連れ出す。


 放課後の構内で二人きり。


 ベンチに座って隣同士になるが、会話が弾まない。


 沈黙が続く中、君は帰ると言い出してこの場を去って行った。


 結局何もできなかった僕は茜色の校舎をぼーっと眺める。


 そのとき、影が僕に話しかける。


 どうやらさっき、あの子の影から情報を聴き出してくれたのだとか。


 今度会うときのために、いろいろと情報を教えてくれる影。


『お節介かもしれないけど』――そう言って、もう一度会ってみればと背中を押してくれる。


 …………。


 僕らしくないけど、もう一度がんばってみようかな。


 斜陽に伸びる影を眺めていると、身の丈以上のことをしてみるのもたまにはアリなのかも。


 ――なんて思ったりもする。

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