第53話ひび割れの彼方
寒い木枯らしに首を竦めながら、僕は真っ直ぐ続くコンクリートの道を眺めていた。
市街地から少し離れた河川敷。
その長い道にいろいろな思いを馳せる。
例えばこのひび割れ。
これは乾燥によって出来たものか。
それとも車が通るうちに少しずつヒビが入ったものか。
もしかしたら上から意図的な衝撃を加えたものかもしれないし、あるいは異世界からやってきた巨人が足跡を残そうとしたのかもしれない。
道を歩きながら考える。
普段、なんとも思わない部分に何かしらの理由がある。
そう思うと思考はどんどんと深みにはまる。
ん、あそこのヒビから草が生えてる。
なんの草だろう?
そういえば草って強い生き物だと思う。
こんな固いコンクリートを突き破って成長を続けるし、冬の寒い時期にも潤いを保っている。
緑色の身体いっぱい太陽を浴びて、常に前を向いている。
強い、雑草。
「なに見てるの?」
――女の子の声に振り返ると、君が立っていた。
コンクリートを眺める僕を、不思議そうに見つめてくる。
「何気ないものをなんとなく見てただけだよ」
僕はそれだけ答えた。
何気ないものをなんとなく見ていただけ。
そしてだらだらと考えていただけ。
ただそれだけの。
なんでもない出来事。
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