第52話吸血鬼になったわたし

 わたしは吸血鬼に目覚めた。


 やけに喉が渇くから夜中にどうしても目が覚めてしまう。


 冷蔵庫からジュースやお茶を取り出してはそれを飲み干す。


 しかし喉を潤すには至らない。


「やっぱり血を飲まないと……」


 そうしないとわたしは乾いたままだ。


 やっぱり飲むしかない。


 ……でも、一体どうやって血を手に入れよう?


「あの、僕のでよければ……」


 翌日、学校に行くと案外すんなりと提供者は見つかった。


 お弁当のプチトマトを咀嚼しながらあなたは微笑んでいる。


 う~んなんか悪い気もするけど、いいの?


 ま、あなたがそう言うんなら……。


 わたしはお言葉に甘えることにした。


 それに野菜ばかり食べてるあなたの血はおいしそうだ。


 早くもその首筋を舐めている自分に気付き、机の上で土下座する。


 その日は一旦お預けして、翌日改めていただくことにした。


 まぁ、気持ちの問題もあるし。


 ――そしてその日の夜は、よく歯を磨いた。


 枕を使って、首筋に噛みつく練習を何回も繰り返した。


 大丈夫、早く終わるし、なるべく痛くしないから。


 そう言い聞かせる。


 そして翌日の本番。


 放課後にあなたを体育館の倉庫に呼び出す。


 後ろ手に扉を閉めるなり、つい押し倒してしまった。


 あわわゴメン! やっぱり我慢できないっ!


 突然のことで狼狽えるあなたを押さえつけ、ピンポイントで首筋にかぶりつく。

 

 ああ、どうしよう、おいしい!


 血を吸ったせいか、吸血鬼になったせいか、なんだか心臓がドキドキしている。


 ――数分後。


 名残惜しそうに首筋を舐めるわたしに「……おかわりは?」とあなたは尋ねる。


 わたしが無言で見つめると、君は静かに身体の力を抜いた。


 沈黙が満たす中、わたしは口元を拭う。


 そして――


 赤い双眸を爛々と輝かせ、心行くまで君の身体を堪能していった――。

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