第51話空の視点

 学校の昼休み。


 購買でサンドイッチを買って、僕は屋上に向かった。


 眠気とダルさがひどい。


 首を回してため息を吐く。


 ああ、意識が飛びそうだ……。


 せめて昼食だけでも楽しもうと、錆びた鉄扉を押して屋上へ出る。

 

 すると人の気配があった。

 

 君だった。


 青い空の向こうに両手を広げてぴょんぴょんと跳ねている。


「何してるの?」


 サンドイッチの封を開けながら僕は尋ねる。


「あ、いいところに!」と振り返った君は、いきなり僕の掴んでいるサンドイッチをぱくりと頬張った。


 なんで食べるんだよ……。


 君は口をモゴモゴさせながら、


「今日は天気がいいから飛べそうな気がして」


 空を指差しながら、そんなことを言った。


 そして肩車をしてほしいと両手を合わせてくる。


 あまりにしつこいので仕方なく言う通りにすると、「おー」と言いながら君は少し高くなった世界で両手を広げた。


 眼前の街と山の稜線を目でなぞりながら「これが空の視点か」と澄んだ瞳で君は呟く。


 空は飛べなかったけど、満足した様子で肩から降りた。


 そして「ありがとう!」と言って君は屋上を去っていく――。


 ――――


 あとから聞いた話だけど、君は先日亡くなったインコと同じ景色を見たかったらしい。


 …………


 空の視点――。


 僕が思っているよりも、ずっと手の届かない場所なのかもしれない。

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