第46話朝焼けビター

 2月14日。


 わたしは気になる相手にチョコを渡した。

 

 しかも手作りのヤツ。


 夕焼けに染まる教室で二人きり。


 平静を装って渡したけど、心臓が爆発するかと思った。


 ひとまず一大イベントを終えたことで胸の辺りがホッとする。


 家に帰って真っ先にベッドの上に顔から倒れ込んだ。


「あう~……」と唸ってふと机の上を見ると、妙なことに気付く。


 今日渡したはずのチョコが、なぜかそこにあった。


 わたしは立ち上がって、その『手作りチョコ』を持ち上げる。

 

 ……しまった、そういうことか。


 ここには元から二つのチョコがあった。


 姉に渡す『市販のチョコ』と、本命の『手作りチョコ』だ。


 どうやら姉にあげるチョコを間違って渡してしまったようで、自分の犯した過ちに掠れた悲鳴が漏れる。


 こんなミスをするなんて……思った以上に緊張していたらしい。


 結局、渡し直すことに決めたけれど、眠れないまま朝を迎えてしまう。


 ボサボサの髪で登校し、再び訪れた放課後。


 斜陽に染まる教室。


 そこにいるあなた。


 緊張のあまり、わたしはチョコを掴んであなたの口に押し込んでしまう。


 ハッとして顔を上げると、あなたはモグモグと口を動かしていた。


 そこでポソリと「ん~……昨日のほうがおいしいな」と呟かれる。


 さすがは市販のチョコ。


 クオリティは侮れない。


 わたしは「そ、そうだよね……」と寂しい笑顔で誤魔化すと、「でも、こっちのほうが好きだ」と、あなたは言う。


「本気の味がするから」


 そんな一言に、わたしは溶けそうになるほど耳を赤らめる。

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