第42話勇者と魔法使い

 私の学校にはヘンなヤツがいる。


 自分を勇者と思い込んでいるあなたのことだ。


 剣と盾のレプリカを持って毎日登校している。


 ドンキホーテじゃあるまいし。


 高校生にもなって、夢と現実の区別がついていないのかな?


 そんなあなたは困った人を助けるのが日課だった。


 先生が重い荷物を持っていたら運んであげたり、部活で怪我をした子を保健室まで背負って行くこともあった。


 そして浮気性が原因で女子生徒を泣かす男子がいれば、教室に乗り込んで懲らしめたこともあった。


 あまりにも自分の心に従順すぎて、いっそのこと清々しさを覚える。


 ――ある日の放課後。


 あなたは私のところに来てこう言った。


「魔法使いが必要だ。仲間になってくれ」と。


 勇者ごっこに付き合わされるのかと思い、やんわりと断ろうとしたその時だ。


 あなたは盾の裏から怪我をした子猫を差し出した。


 あなたは処置の仕方がわからず、猫を飼っている私を頼ったらしい。


 実際、知識のあった私は保健室へ行って手当を施した。


 よし、これでもう大丈夫だろう。


 念のため動物病院で診てもらうといい。


 そう言うとあなたは「さすがはヒーラーだ」と猫を抱きかかえ、「最高の回復魔法だ。ありがとう!」と言って動物病院へと走っていく。


 なんだか忙しい人だ。


 さて、私も帰ろう。


 帰り道で私は、ふと思い出す。

 

 さっきあなたが言っていたあの言葉だ。


【最高の回復魔法だ。ありがとう!】


 あれだけストレートに言われたら、嬉しさを通り越してなんだか恥ずかしい。


 ……けれど、そんなにイヤな気分でもなかった。


「夢と現実……か」


 私には夢がある。


 将来は動物病院のお医者さんになりたい。


 私も真っ直ぐに生きれば、その夢も現実になるのだろうか?


 ふと、そんなことを考えたりする。

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