第40話イケボのクマさんと、秘密のお話

 16歳のわたしには秘密がある。


 学校から帰った後、密かに告白の練習をしているのだ。


 部屋に籠って誰もいないことを確認すると、後ろ手でドアの鍵を閉める。


 ベッドに置いてあるクマのぬいぐるみをあなたに見立てて、今日もわたしは練習を始める。


「わ、わたしはあなたのことが……す、す、す~っ……!」


「おい! もっとハートを押し出せ!」


 ……え、なに今の?


 信じられないことにクマのぬいぐるみが喋った。


 しかもキュートなフェイスに反するイケメンボイス。


 ぽかんとするわたしをよそに、クマは告白のコーチをしてくれると胸を張る。

 

 夢を見ているのだろうか?


 この非現実的な展開にしばらく戸惑ったけど、今日を境に告白の特訓が始まった。


 クマの特訓は厳しかった。


「声が小さい!」とか「気持ちが入ってない!」とか色んな注文をつけてくる。


 いつも枕元でお話を聞かせてあげていたクマさんが、こんな鬼教官だったなんてショックだ。


 よし、明日から一緒に寝てあげない!


 ――それから数日後。


 いよいよ成果を見せる時が訪れた。


 帰宅ルートのこの場所で待ち伏せしていれば、あなたは一人でやってくるハズだ。


 しかし、今日という日に限ってそれは違っていた。


 隣に女の子がいた。


 しかも楽しそうにお話をしている。


 わたしは前に出ることが出来ず、その場でしゃがみ込み、顔を伏せてしまう。


 クマは何も言わずに、わたしの背中に手を当てていた。


 ――その日の夜。


 一人で寝ていると、枕元にクマがやってくる。


 そして「よく頑張ったな」と頭を撫でてくれたあと、わたしがよく聞かせていた空想のお話を語ってくれるのだった。


 そしていつの間にか、眠りに落ちる。


 わたしはイケメンのクマさんとデートする夢を見た。


 

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