第39話夕暮れスウィート

 ある日の夕暮れ。


 学校の教室で一人、僕は天井を眺めていた。


 部活もやっていないし、家に帰ってもゴロゴロするだけだから。


 だからこうしてぼーっとしている。


 たまにはこういうのもいいだろう。


 そうしていると突然ドアが開き、君がニコニコしながらやって来た。


「ねぇ、今から君ロッカーね」


「え? ロッカー?」


 一瞬、何を言われたのかわからなかった。


 ろっかー?


「音楽的な意味?」と尋ねると、「戸棚的な意味」と、君は身体を揺らしながら返答してくる。


「いいから早く!」と急かしてくるものだから、僕は仕方なく立ち上がった。


 そして想像できる限りのロッカーを演じてみる。


「こ、こうかな?」


 両腕を動かしてバスケットのゴールみたいな形を作る。


 ロッカーだからモノを入れるイメージだ。


 だから円を作って表現したんだけど……やっぱり意味がわからないよな。


 すると君は「う~ん……」と首を捻り、「もっとわかりやすい入り口はどこ?」と聞いてくる。


 わかりやすい入り口とは一体……。


 僕は少し考えて、「ここだよ」と口を開けてみる。


 と、その瞬間。


 君は僕の口に何かを入れた。


 びっくりして口を閉じると、なんだろう……甘い味がする。


 君は人差し指を僕の唇に当てると、「それ、手作りだから」と言い残し、風のように教室から去って行った。


 しばらく僕はぼーっと立ち尽くす。


 目を見開いたまま、視線の先は黒板の日付に留まっていた。


 ああ、そういえば今日は2月14日だった。

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