第35話死海の灯りを目印に――

「ここは世界の果て、死海と呼ばれる海だ。別に塩分濃度が高すぎてこういう名前がついているわけじゃあない。ほんとうに訪れた人が死んでしまうからだ。しかもその原因は未だ謎に包まれている。そう、まるでこの深い霧のように――」


 小舟の船首に立って、君はセリフ口調で言った。


 ここの謎を解明するためについて来たのはいいけど、かなり薄気味悪い海だ。


 なんでこんな場所に来たかというと、理由がある。


 僕は「謎部」という部活に所属しているからだ。


 解明されていない謎を解き明かすのが、この部活の目的。


 それにしても君はさっきから、なにをしているのだろう?


 ランプを霧の中に向けて、遠くに視線を這わせている。


 さざ波一つ起こらない静かな海は、今にも幽霊が出そうで不気味だ。


「あのさ、私と付き合ってくれる?」


 唐突に君はそんなことを言った。


 意味がわからず聞き返してみると、それは純粋な告白だという。

 

 つまりは男女の関係。

 

 なんでこんな場所で言うのだろう?


 不審に思いながら、僕はその申し出を断る。


 すると君は「そう」と呟いて、ランプの火を小舟に放った。


 燃え盛る炎の中、心中しようと僕を抱き締めて動かなくなる君。


 どうしよう、海へ逃げても岸まで身体が持つとは思えない。


 揉み合っているうちに海へ転落した僕は、やがて意識を失い海の底に沈んでいった……。


 このことがきっかけで、僕は死んでしまう。


 のちにわかったことだが、君は自力で助かったようだ。


 そしてしばらくの時を経て、僕はここで死んだ幽霊たちと友達になった。

 

 聞く限りでは、君はよくここに来て同じような事を繰り返しているという。

 

 ここで話している幽霊たちも、かつての謎部の先輩らしい。


 先輩たちは言う。


「君とどうしても話がしたい」――と。


 だから「こっち側」に来てもらうため、僕たちは毎日手を伸ばす。


 霧の中に浮かぶ、幽霊のようなランプの灯りに――。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る