第34話立ち入り禁止の森

 わたしはあなたを尾行することにした。


 その理由は一つ。


 学校が終わってすぐに、あなたはなぜか立ち入り禁止の森へと入っていくからだ。


 わざわざこんな薄暗い場所に行くなんて、理由がわからない。


 そのわけが知りたくてわたしは後ろをつける。


(何をする気だろう……)


 わたしは眼前の背中を見つめながら考えた。


 あなたの鞄からは、明らかに鉈の取っ手がはみ出している。


 それ以外に何が入っているのかわからないけど、やけに鞄は膨らんで見えた。


 立ち入り禁止の森に鉈……これ以上の怪しい組み合わせはない。


(まさか……!)


 脳裏によぎったのは、あなたが最近ハマっていたミステリー小説のことだ。


 休み時間にやたらと完全犯罪のやり方について聞いてくる様子は、ミステリマニア以上の何かを感じていた。


 もしあなたが「犯人側」の人間になっていたとすれば……。


 そう考えると辻褄が合う。


 最近、友人と大喧嘩をしたという話も聞いたし、絶対そうだ。


 急に怖くなったわたしは、来た道を引き返そうと踵を返す。


 ――が、次の瞬間、


「そこで何してるの?」


 と、あなたに声をかけられた。


 怯えているわたしに向かって「よかったら来なよ」と、あなたは明るく手招きをする。


 怪しい気がしながらも、わたしは逃げることもできずについて行くことにした。


 しばらく歩くと、開けた場所に辿り着く。


 そこには作りかけの小屋と、小さな犬がいた。


 わたしは「こんなところでなにしているの?」と聞いてみる。


 どうやらあなたの家ではペットが飼えないらしい。


 だからここに秘密の犬小屋を建てて、飼おうとしたようだ。

 

 集めてきた木材を鉈で切りながら、そんなことを言う。


「なんだ……そうだったのね」


 全てはわたしの勘違いだった。


 真実を知ったわたしは、少し安心した気持ちになる。


 疑ったお詫びといってはなんだが、わたしは作業を手伝ってあげることにした。


 あなたは頑なに拒んでいるけど、遠慮することはない。


 その日をきっかけに、何度かわたしは小屋へ行くようになった。


 手伝うたびに「無理しなくていいから」とあなたは気を遣ってくれる。


 そうして小屋作りは着々と進んでいくけれど、なぜか地面に向けて毎日犬が吠えていることだけが、どうしても気になって仕方がない。

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