第31話流れ星

 僕は殺し屋だ。


 高校生にして人を殺すことを生業としている。


 依頼があれば報酬次第でなんなりと。


 今日も夜の帳を飛翔する。


 ある日のこと、夜景が綺麗な展望台で仕事を遂行した。


 ターゲットは眠ったように薬で死に絶え、あとは闇に紛れてこの場を去れば仕事は終わりだった。


 しかし、見られてしまった。


 目撃者は同じクラスの生徒。


 毎日、花壇に水をあげている姿が印象に残っている。


 まさか君に見られるなんて……クソ、落ち着け。


 焦る必要はない。


 なぜなら死体は眠っているようにしか見えないからだ。

 

 ――でも。


 通用しなかった。


 僕が動揺してしまったからだ。


 感情の僅かな機微から、君は全てを見抜いたように悲しい顔をする。


 なんてことだ。


 こうなった場合、セオリーでは目撃者を始末することになっている。


 単純な話、バレたらこの世界でやっていけなくなるからだ。


 下手をすれば自分の命が狙われる。

 

 だから僕は決意した。


 君をここで殺すと。


「…………」


 首を絞めるとき、君は声を上げることはなかった。


 ただやさしく微笑んで、花に水をあげるときのように穏やかだった。


 君の頬に、一筋の涙が伝う。


 まるで流れ星みたいに綺麗だった。


 冷たくなった君の横で、僕は一晩を過ごす。


 君を抱いたまま、なぜか一歩も動くことができなかった。


 このまま逃げてしまえば、なにごともなく全ては終わるのに。


 真冬の夜気に晒されながら、やがて身体は冷たくなっていく。


 眼前の街明かりが蛍のようで、空には満天の星空が輝いていた。


 僕は眠くなって、静かに目を閉じる――。


 それからしばらく経って、北の夜空に小さな流れ星が落ちた。


 手を握るように灯火を纏い、夜明けと地平の狭間を駆ける。


 涙のような星の尾を光に変えて、二つの流れ星は飛翔した。

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