第30話丸っこい何か

 あなたが丸い物体になってしまった。


 透明な球体で触るとプニプニしている。


 まるでスライムみたいだけど本人は違うと言い張る。


 人間の器官がついていないのに喋ったり聞いたりできるのが不思議で興味深い。


 家族にはこの姿を見られたくないらしく、しばらく理由をつけて私が預かることにした。

 

 両手に載っけて持ち帰るとひんやりして気持ちいい。


 自室の机に置いてみると、「ありがとう」とお礼を言って水溜まりみたいに平たくなった。


 どうやら寝ているようなのだが、まんま水溜まりじゃん……。


 一カ月も過ぎると、あなたの身体は大きくなっていた。


 もう部屋の半分近い体積がある。

 

 どうも食べた物を取り込んで大きくなるらしいのだが、ほんと不思議だ。


 今日もホットケーキを千切って食べさせてあげると、ご機嫌なプリンみたいに揺れる。


 ――と、そのとき。


 なんだかコゲ臭いにおいがした。


 しまった! キッチンの火が点けっぱなしだ!


 慌てて自室の扉を開けるが遅かった。


 既に火の手は回ってしまい、煙と炎に巻かれた私の意識は遠くなっていく。


 するとあなたは上から覆い被さり、そのまま私を食べた。


 透明の身体に私を取り込み、炎の中を転がるように前進する。


 そして火事からの脱出に成功したのだ。


 奇跡的に私は助かったが、あなたの身体は熱にやられて蒸発してしまった。


 私は悲しくて、その場で泣き崩れてしまう。


 そんなとき、後ろから誰かが肩を叩くので、目を擦りながら振り返る。


 すると裸になったあなたがいた。


「痩せちゃった」と頭を掻きながら、恥ずかしそうに目を泳がせている。


 そんなあなたに抱きついて、私はスライムみたいな大粒の涙を流した。

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