第26話ふしぎな時計と、面影のある店主
わたしは変な時計を買ってしまった。
秒針が一秒ずつ逆戻りしている掛け時計だ。
白髪の店主がどうしてもというから買ったけど、後悔している。
だってわたしが欲しかったのは腕時計だから。
こんなのいちいち抱えて歩けない!
――帰り道でのこと。
この変な時計を眺めながら不満をぶつぶつと口にする。
ぶつぶつと口にしていたせか、下を向いていたせいか。
曲がり角にトラックが突っ込んできていることに気が付かなかった。
反応が遅れたわたしは、目を見開いたまま固まってしまう。
ああ、時計を抱いたまま死んでしまうなんて……。
目を閉じたわたしの脳裏には、「あのときのあなた」の顔が浮かんでいた。
するとどうだろう。
あっという間に時間が巻き戻り、事故が起こるのを防げた。
腕の中で時計が光っている。
……どうなってるの?
これを機に時計の能力を知ったわたしは、幼い頃、姿を消したあなたを救うことを思いつく。
めちゃくちゃな話だが、空に開いた時空の歪みにあなたは呑み込まれていた。
あの姿は今でも忘れることができない。
誰に言っても信じてくれないし、あの日の出来事はけっこうトラウマだ。
早速「時間よ戻れ!」と念じるが、その前に時計屋の店主に会っておこうと思った。
こんな物を売りつけるなんてフツウの時計屋じゃない。
訝しい顔つきでわたしは早速店に向かう。
そして入店したわたしに対し、店主は「無事でよかった」と柔和な笑みをこぼした。
しかも「これで過去を変えることができた。未来に飛ばされた意味があったよ」と、わけのわからないことまで言ってきた。
「残念だけどその時計は一回しか使えないんだ」――さらに店主はそう告げて、店の奥から紅茶が入ったカップを持ってくる。
「少しお話がしたいな」と、あのときのあなたそっくりな笑顔で椅子に座った。
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