第25話手を繋いだ城の中で

 僕が目を覚ますと廃墟になった城の中にいた。


 朽ちた西洋風のレンガに蔦が這っている。


 目の前は濃い霧が立ち込めていて、幽霊が頬を撫でるように寒い。


 ふと隣を見ると君が眠るように倒れていた。


 肩を揺すると目を開けた。


 よかった、生きてる。


 とにかくここに留まってはいけない気がした。


 城を脱出しよう。


 僕は君の手を握って立ち上がる。


 辺りを動き回ってみるが、人の気配はない。


 ここは廃墟になって随分と時間が経っているのだろうと思った。


 石畳の通路は迷路のようで、時には二人の力を合わせないと開かない扉とかもあった。


 高い段差は肩車で上ったり、君が疲れたら肩を寄せ合って休んだ。


 日が昇って沈むを繰り返し、二日目の朝に僕たちは城の出口へと辿り着く。


 射し込む朝日に目を細め、お互い顔を見合わせた。


 出口の向こう――橋の先には開かれた扉がある。


 駆け出したその時、僕は身体の変化に気が付いた。


 全身が徐々に石になっていったのだ。


 足の先から蝕むように、朝日の影響を受けて身体は固く動かなくなっていく。


 城から出られないような、呪いをかけられたのかもしれない。


 ああ、このまま終わってしまうのか……?


 ――すると朝日を遮るかのように、君が僕の身体を抱き締める。


 しかも君の身体は、濃い霧を発して霧のカーテンとなっていった。


 結果、太陽の光を遮ることに成功して、僕は君に守られた。


 …………


 ――と、ここで目が覚める。


 ハイキングの途中で右脚を怪我し、僕は気絶していたようだ。


 深い霧の向こうを見つめ、ゆっくりと立ち上がる。


 そうだ……君は僕を庇ってこの先に落ちたんだっけ。


 ――絶対に助けてみせる。


 幽霊のような足取りで、僕は電波も光も遮られた森の中を進んでいった。

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