第22話たけのこと、月の姫

 ある日のこと、学校の帰り道にたけのこが生えていた。


 住宅街のコンクリートにぽつんと頭を突き出したそれは、違和感の塊でしかない。


 見たところ周囲に竹林のようなものは見当たらないが、だとしたらこういうものが生えるのは場違いだろう。


 わたしは不思議に思いながら、たけのこをじーっと眺める。


 そうしているうちにだんだんと可愛くなってきて、密かに持ち帰ってしまった。


 案外簡単に採れるんだな……。


 とりあえず台所に置いておこう。


 しかし放っておいても腐るだけだし、結局たけのこご飯にして食べることにした。

 

 普段料理なんか作ったことのないわたしだけど、ネットで調べながらやってみたらけっこうおいしくできた。


 うまーっ!

 

 勢いにのって食べていたら、炊飯器の中を空にしてしまった。


 そして翌日――。


 わたしは大きくなっていた。


 いや、ただ身長が伸びただけでなく、垢抜けたというか大人びた感じになっていた。


 これは幼い見た目にコンプレックスを感じていたわたしにとっては朗報だ。


 しかもこの日以降、クラスの男子たちから注目を浴びることになる。


 特にあなたから見られると恥ずかしくて心臓の辺りが落ち着かない。


 それから数日が経ち、やがてわたしは告白された。


 あなたと正式に付き合うことになったのだ。


 夢のような楽しい日々は続いたが、この見た目がたけのこによるものだということは隠している。


 罪悪感を抱いたわたしは、全てを告白することにした。


 すると突然、月から光が降りてきた。


 その光は、わたしを宙へと攫っていく。


 わたしは月に辿り着き、月の姫となった。


 それからあっという間に数カ月が経つ。


 わたしはここで一人きり。


 月面に立ち、遠く青い惑星を眺めながら胸を押さえる。


 あなたは今、なにをしているの?


 告白されたあの日を思い出して、心臓の辺りが落ち着かない。

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