第20話セーターの渡し方

 わたしはセーターを編んでいる。


 赤い毛糸を使った手編みのものだ。


 雪が降る頃にあなたに渡そうと、密かに編み続けてきた。


 完成は間近。


 見たか、これが女子高生の本気だ。


 やがて枝葉も枯れ、首筋を竦める季節がやってきた。


 いよいよだ。


 もうじきこの赤いセーターがわたしとあなたを結んでくれる。

 

 来い! 雪!


 ありったけの想いを編み込んだ糸は、ついに完成の時を迎えた。


 ところが翌朝のニュースを見て、わたしは驚愕する。


 異常気象のせいで、今年の冬は雪どころか寒くならないらしい。


 ガチで!?


 動揺したわたしはセーターを手にしたまま外に出る。


 片手で遮った日射しに目を細めながら「終わった……」と肩を落とした。


 ――それから時は過ぎ――


 暑い冬はしばらく続いた。


 街中では半袖姿が多く目につくようになり、学校ではプール開きまでするところが出てきた。


 寒がりのあなたが嬉しそうに屋外スポーツを楽しむ姿は眩しい。


 しかし、わたしの心は冬の空みたいにどんよりしていた。


 それからも天気予報は残酷な晴れ模様を告げる。


 そんな中、わたしは決意を固めた。


 せっかく作ったんだから、最後にセーターを渡して撃沈しよう。


 こんなときに渡すのもどうかと思うが、先走って作ったわたしが悪い。


 だけど行く――


 行ってやる――!


 意を決してわたしは走り出す。


『赤いセーターを自ら着た状態』で。


 わたしごと受け取ってもらうために。


 全力で正面から、あなたに抱きついた。


「好きです」


 そんな一言を添えて。


 太陽の下、ギュウっと抱き締める。


 ひょっとしておかしな人だと思われたかもしれない。


 あなたは驚いて固まったままだ。


 でもいい。


 後悔は――ない。


 しばしの沈黙が流れる。


 ……やっぱりダメだったかなと思っていたそのとき。


 あなたはわたしの熱にやられたようで、「よ、よろしくお願いします」と、この気持ちを受け入れてくれた。


 え、ほんとに!?


 やたー!


 飛び跳ねるわたしのそばで、あなたは顔を赤らめている。


 一時はどうなることかと思ったけど、嬉しすぎる。


 ああ、太陽が眩しい……。


 澄み渡る空に目を細めながら、わたしは心の中で拳を握った。


 見たか、これが女子高生の本気だ。

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