第16話攻める芸術
わたしは粘土を捏ねる。
美術の授業で先生から与えられた課題だ。
テーマは『動物』。
早速制作に取り掛かる。
しかし、完成した作品はナイーブなイエティが背中を丸めているように見えた。
自分の芸術感性に落胆する……。
まぁ、これも動物の一種だということにしてほしい。
「…………」
その時、向かいから強い視線を感じた。
顔を向けると、こちらを見ながら粘土を捏ねるあなたの姿があった。
まじまじと目を細めながら器用に手を動かしている。
このイエティに興味を持ったのか?
あるいは腹の底で、この前衛芸術を笑っているのか?
あなたの美術感性はズバ抜けているから、それもあり得る。
今ここでイエティを作れと言えば、実物よりもそっくりな偽物を作り上げるはずだ。
「…………」
授業が終わるころ、あなたは課題を完成させた。
その出来栄えは見事なもので、先生だけでなくクラスの全員が目を見張った。
それは窓際の一番目立つところに飾られることになる。
しかし、先生はあなたを呼び出して「どうしてこれを作ったの?」と質問した。
みんなもその問いに注目する。
――なぜなら。
あなたが作ったのは、わたしだったからだ。
さも当たり前のように「これも動物の一種ですから」と、言う。
しばしの沈黙を挟み、わたしは自分の前衛芸術と見比べ、ぽそりとこぼした。
「攻め過ぎだって……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます