第16話攻める芸術

 わたしは粘土を捏ねる。


 美術の授業で先生から与えられた課題だ。


 テーマは『動物』。


 早速制作に取り掛かる。


 しかし、完成した作品はナイーブなイエティが背中を丸めているように見えた。


 自分の芸術感性に落胆する……。


 まぁ、これも動物の一種だということにしてほしい。


「…………」


 その時、向かいから強い視線を感じた。


 顔を向けると、こちらを見ながら粘土を捏ねるあなたの姿があった。


 まじまじと目を細めながら器用に手を動かしている。


 このイエティに興味を持ったのか?


 あるいは腹の底で、この前衛芸術を笑っているのか?


 あなたの美術感性はズバ抜けているから、それもあり得る。


 今ここでイエティを作れと言えば、実物よりもそっくりな偽物を作り上げるはずだ。


「…………」


 授業が終わるころ、あなたは課題を完成させた。

 

 その出来栄えは見事なもので、先生だけでなくクラスの全員が目を見張った。


 それは窓際の一番目立つところに飾られることになる。


 しかし、先生はあなたを呼び出して「どうしてこれを作ったの?」と質問した。

 

 みんなもその問いに注目する。


 ――なぜなら。


 あなたが作ったのは、わたしだったからだ。


 さも当たり前のように「これも動物の一種ですから」と、言う。

 

 しばしの沈黙を挟み、わたしは自分の前衛芸術と見比べ、ぽそりとこぼした。


「攻め過ぎだって……」

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