第15話ゾンビの治し方

 あなたがゾンビになった。


 学校の帰り道のことだ。


 あなたは下校中の生徒をいきなり襲い始めた。


 私はその光景を唖然と突っ立ったまま見つめていた。


 襲われた生徒は首筋を噛まれて地面に倒れる。


 それはマネキンのようでリアリティがない。


 でも、私が見ているのは現実だ。


 決してフィクションやドッキリの類なんかではない。


 あなたはこちらに気付き、ギョロリと視線を向けてくる。


 逃げろ。


 反射的に踵を返した私は、猛ダッシュで校舎の外へ出た。


 噛まれた生徒のことなど構っている余裕なんてない。


 今はただ、危険なものから遠ざかるための本能が身体を動かしていた。


 逃げながらチラリと後ろを見ると、あなたが追っかけてくる。


 しつこいな。


 そんな性格じゃモテないぞ。


 なんて思っているうちに、行き止まりにぶち当たった。


 周りが高いコンクリートの壁で囲まれていて、完全に逃げ場を塞がれている。


 後ろを見ればフーフーと息を吐きながら、あなたがにじり寄る。


 詰んだ。


 このままじゃ噛まれる。


 ――結局、私は噛まれてしまった。


 あっけなく地面に倒れて短い人生を終える。


 思い返せば平凡な人生だった……。


 そんなことを考えていると、途中で目が覚めた。


 ふらふら立ち上がると、目の前に元に戻ったあなたの姿がある。


 しかも、今度は私がゾンビになっていた。


 あなたが言うには、好きな人の血に触れることが元に戻る条件だったらしい。


 なるほど、そういうことか。


 あなたは自分の首筋を晒して、「噛め」と合図する。


 じゃあさっそく……――


 私はその首筋に噛みつくことはなかった。


 あなたは意外そうな顔をして狼狽えている。


 え、僕のこと好きじゃなかったの? 的な。


 え~っと……ゴメン。


 私が好きなのは、別のクラスの子なんだよね。

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