第12話静かな映画館の隣の席

 休日のある日、僕は映画館にいた。


 アーケード街の隅っこにぽつんと建っている小さな映画館。


 お客の入りはまばらで、今日も閑古鳥が鳴いていた。


 外が寒いせいか、単純に人気がないだけなのかわからない。


 入口のレトロな扉を開けると、ギギギと音がする。


 随分と年季が入っているせいだろう。

 

 この音を聴くたびに、建物が「いらっしゃい」と言っているような気がして僕は好きだ。


 それからチケットを買って館内に移動する。


 中は自由席になっているので、僕は決まって一番後ろの真ん中に座る。


 いつもここは空いているから、まるで指定席みたいだ。


 ある意味貸し切り状態。


「…………」


 そのとき。


 斜め上に視線を感じたので、顔を上げてみる。


 そこにいたのはマフラーを口元まで巻いた女の子。


 ムスっと立ったままで、こちらを見ていた。


 どうやらこの席に座りたいらしい。


 じっとこちらを見たまま。


 無言の圧力で訴えてくる。


 争いを好まない僕は、「どうぞ」と席を譲った。


 とりあえず今日は別の席で観よう。


 そう思って離れようとすると、女の子は僕の上着を引っ張った。


 何か言われると思い、内心ビクっとした。


 だけど女の子は意外なことを言う。


 これから始まるホラー映画を、一人で観るのが怖いらしい。


 つまり。


 一緒に観ようということだ。


 …………。


 じゃあなんで一人で来たんだろう……。


 女の子は上着を掴んだまま、無言の圧力で訴えてくる。


 その視線に負けた僕は、隣に座ることにした。


 ちょっと面倒くさい子なのかな?


 いろいろ考えているうちに、二人だけの上映が始まる。


 約二時間ほどで上映は終わり、僕たちは館内を出た。


 その日はこれで終わったが、それからというもの、僕はこの映画館で女の子とよく会うようになった。


 相変わらず客入りは少なく、館内で二人きり。


 そして何かしら理由をつけて、僕は君の隣に座らされていた。


 いつしか一番後ろの真ん中は、君の席になっていた。


 僕はそのとなり。


 たまに君がいない日は、真ん中に座るチャンスだ。


 ためしに座ってみるけど……なんか落ち着かない。


 そこに君が座っているような気がするから。


 ……習慣はこわい。


 だから僕はとなりに座る。


 今日は一人。


 スクリーンを眺めながら、君が来ないかな、なんて思ったりする。

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