第10話異世界

 ある日、僕は異世界に転生した。


 死んだはずなんだけど……。


 死んだ直前のことを、よく覚えていない。

 

 たぶん、転生するまでは至って健康な高校生だったと思う。


 ぼんやり思い出せるのは、自分の名前と仲のよかった君の顔。


 ちなみにこの異世界は、地球にそっくりだ。


 ぽつりと座って、どこまでも続く青い海の彼方を眺める。


「ねぇ、あなた初めて見る顔ね?」


 そこでふと、僕の視界に女の子が入ってきた。


 しかも、仲のよかった君にそっくり。


 肌が日焼けしている点を除けば、声や仕草まで似ていた。


 異世界の住人とわかっていながら、胸がドキドキしてしまう。


 なにをどう話していいかわからずに、たじろいでいると、


「よかったらウチ来なよ」


 女の子は僕の手を引いて、近くの町まで連れていってくれた。


 そこは立派な港町で、見たこともない大きな魚が店先に並んでいた。


 女の子は釣れたばかりの魚をご馳走してくれたうえに、僕を家に泊めてくれる。


 行くところのない僕は、仕事を手伝いながらこの家に住まわせてもらうことになった。

 

 やさしい女の子と一つ屋根の下なんて、まるで夢みたいだ。


 ――それから早10年が過ぎた。


 共同生活は続き、僕たちは結婚することになる。


 式の前夜、静かな海辺で二人きり。


 僕たちは星の降る空を眺めていた。


 するとそこに、ひときわ輝きを放つ流れ星が落ちてくる。


 そして、さざ波の上で弾けた。


「――やっと会えたね」


 光の中から出てきたのは、前世で仲のよかった君だ。


 現実世界にいるはずの君が、なんで異世界に?


 疑問を抱く僕に、君は説明する。


「ここは異世界ではなく、現実世界なんだ」と。


 僕はコールドスリープしていたため、記憶が曖昧になっているらしい。


 ある日、人類は進化した文明ごと眠りについたという。


 海の底で眠っている間、地表では一度文明がリセットされたのだとか。


 しかし再び人類は進化を遂げた。


 それから地球には、海底に眠った未来文明と、地表で栄える文明の二つが出来上がることになる。


 海底で目覚めた君は、僕を迎えにきたらしい。

 

 手を差し出す君を前に、僕は言葉がでない。


 それはもう、心に決めた相手がいるから。


 今さら地表を離れるなんて……僕は――。


 …………


 婚約者の手を握りながら、再び星を見上げる。


 地表か、未来か。


 …………


 この世界はもう、充分すぎるほどに異世界に思えた。

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