第9話魔法の紙が残したもの

 わたしは魔法の紙を手に入れた。


《この紙に描いた絵はなんでも実物になります》との謳い文句だったので、半ば疑いながらペンを手に取る。


 何を描くか迷ったけれど、ひねくれているわたしは《魔法の力》と、文字を書いた。


 するとそれは光の粒になってフワッと消えてしまう。


 …………。


 やっぱり絵じゃないとダメなの?


 つまんないから寝ようと思ったそのとき。


 ふとキミの顔を思い出した。


 昔よく遊んだ想い出は、今でも鮮明に覚えている。


 記憶を頼りに描いてみるが、しかしこれもまた光の粒になりフワッと消えてしまった。


 もしかしてわたしの画力不足のせい?


 ぼーっとどこかを眺めながら机の上で頬杖を突いていると、後ろで声がした。


「え?」


 振り返ると、キミが笑っていた。


 しかも「やあ」と手を振っている。


 これは夢?


 顔だけ描いたのに、全身が実物通りに再現されている。


 というよりも、この人物は本物としか思えなかった。


 …………。


 紙から出てきたけど、これからどうすればいい?


 たぶん架空の人物だろうけど、肉親に会わせるのは控えたほうがいいかも。


 パニックになっても困るし……。


 幸いわたしは一人暮らしなので、とりあえずキミを同居させることにした。


 しばらく様子を見るということで。


 ――こうして二人の生活が始まる。


 外出は必要最低限に留めながら、キミといろんなところに出掛けたりした。


 買い物もして、家では一緒にご飯を作ったりもした。


 なんだか楽しかった。


 昔、一緒におままごとをしたときのような、そんな懐かしさが胸を満たす。


 この生活はしばらく続き、なんと一年が経過した。


 そしてキミは、ときどき実家に帰りたいと言いだす。


 しかしわたしは何かと理由をつけて、それをことごとく阻止した。


 それには理由がある。


 なぜなら。


 本物のキミは、もうこの世にいないからだ。


 正直、ここにいるキミは幽霊じゃないかって最初は焦った。


 だけど今では本物みたいで愛おしい。


 愛おしい生活は続くけど。


 そんな時間には、決まって終わりがくる。


 偶然見つけた過去のネット記事。


 それを見たキミは、自分の事故死を知ってしまった。


 自身の存在を認識したとこで、キミの身体は光の粒になっていく。


 徐々に消えていく。


 わたしは思わず手を伸ばす。


 が、虚空を切る指先が温もりに触れることはなかった。


 ――――。


 ――それから長い年月が経過した。


 現在、わたしは絵を描き続けている。


 下手という理由から諦めていたけど、このあいだ初めて賞を取ることができた。


 どこかでキミが見ているような気がして、下手にサボることができない。


 だからわたしは、描く。


 あの日の想い出を、筆にのせて。


《魔法の力》


 それは、キミ自身だったのかもしれないね。

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