第8話犯人の罠と罠

「犯人はあなただッ!」


 一度は言ってみたかったセリフだ。


 ちょっとしたことから探偵役を命じられた僕は、とある山荘での殺人事件に巻き込まれ、犯人を言い当ててしまう。


 まるで主人公にでもなったみたいで、正直、心が躍った。


 しかし犯人が明るみになったところで物語が終わると思ったら、大間違い。


 なんと犯人の女の子が告白をしてきた。


「好きです」


 それはストレートな告白だった。


 僕は迷う。


 いや、迷うなとツッコまれそうだが、正直、僕も彼女のことが好きだった。


 まさかの両想い。


 君はクラスで一番の美少女。


 大富豪の、ご令嬢だ。


 どうする?


 相手は殺人犯だ。


 警察に突き出さないと。


 見逃していいハズがない。


 そんなことを思っていると、君は「罪は償います」と瞳を潤ませる。


 そして悲しい顔をして、僕の手をやさしく握った。


 なんかイイ匂いがする。


 顔が……唇が……近い。


 どうしよう、このままじゃ許してしまう!


 ――と、唇が重なるそのとき。


 僕は意識を失った。


 この香りは、君が仕掛けた罠だった。


 つまりは毒。


 すべては計算ずくめ。


 クツクツと肩を揺らしながら高笑いを上げる君。


 床に倒れる僕。


 君はきっと、勝ちを確信しただろう。


 ――でも。


 部屋の扉から、もう一人の僕が入ってきた。


 君は目を白黒させる。


 ――そう。


 毒の罠にかかったのは、僕のそっくりさんだ。


「フフ、騙せると思った?」


 ドヤ顔の僕。


 要は保険を掛けていた。


 すべては計算ずくめ。


 項垂れる君に、言葉をかける。


「じゃあ、警察にいこっか」


 一度は言ってみたかった、セリフだ。

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