第3話図書室へ

 私は文字を読むのが苦手だ。


 昔から小説よりもマンガ派で、活字に目を通せば三分で眠りにつく自信がある。


 そんな私に、先生が声をかけてくる。


 レポートの出来が悪いから、再提出しろとのことだ。


「うぅ~~~……」


 放課後の図書室で一人きり。


 辞典のように分厚い専門書を三冊積み上げる。


 開いたページとにらめっこするが、開始三秒で瞼が重い。


 ……ダメだ、窓から射し込む西日が睡魔に追い討ちをかける。


「隣、いいかな?」


 と、春風のような声が届いた。


 私は半分剥いていた白目を戻して、ガタンと席から立ち上がる。

 

 隣にはあなたがいた。

 

 いつも知的で物静か。


 図書室で本を読んでいる以外に、素性を知らないミステリアスな存在。

 

 あと、メガネを上げる仕草が素敵……。


「あ、ど、どうぞ……」


 私が席を促すと、あなたは小さく微笑んで椅子を引いた。

 

 持ってきた小説をめくり、瞳だけが静かに文字を追っている。


 私はとりあえず、調べものをしているフリをした。

 

 ……どうしよう、内容が頭に入ってこない。


 窓から流れてくる風に、特別いい香りがついたような気さえした。

 

 ああ、なんだろう。


 このままずっと時が止まってしまえば――。


 ――――


 そして翌日のこと。


 私はレポートを提出できずに、先生からお説教を食らった。

 

 うぅ……最悪だ。


 でも、また図書室に行く口実はできた。


 叱られたのに、気のせいか心が軽い。


「さてと――」


 放課後の私。


 それは、風よりも早く教室を飛び出す。

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