第4話電柱に別れを告げる少女
深夜のこと。
僕はバイトの帰りだった。
自転車を漕いでいると、道端に横になっている電柱を見つけた。
古くなって取り外したものだろう。
きっと明日には電力会社の人が運んでいくはずだ。
ぼんやりと街灯に照らされる様子は、舞台の上で燃え尽きた役者のよう。
なんとなく通り過ぎようとしたその時。
電柱の上に人の気配があった。
暗がりに浮かび上がるその正体は女の子だ。
この寒い季節にマフラーだけの軽装備。
横たわる電柱に腰を下ろして、星空を見上げている。
「なにしてるの?」
気付いたら僕は尋ねていた。
自転車を止めて、視線を向ける。
すると女の子は、フーっと白い息を吐いて、僕のほうを見た。
「わたしと同い年なの」
高校生くらいの女の子は言う。
どうもこの電柱は、彼女が生まれた年にここに立ったものらしい。
通学路の道中ということもあり、女の子は「いってきます」と「ただいま」を欠かさず電柱に言うようにしていたのだという。
まるで家族の一員のように。
電柱が撤去されることを知り、女の子は最後の夜を過ごしに来たのだとか。
今までの想い出を数えるかのように、澄んだ瞳は星の海をなぞる。
雨の日も風の日も、彼女しか知らないドラマがそこにはあるのだろう。
しばらくして立ち上がった女の子は、小さな声で「ある言葉」を残した。
やさしく電柱を撫でると、そのままマフラーに包まって街灯の向こうへと消える。
そして翌日――
電柱は撤去されていた。
それからこの道を通るたびに、僕は思い出す。
女の子が残したあの言葉。
今でもやさしく、響いている。
「お疲れ様」と。
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