第39話 “寡兵よく大軍を破る”とも言いましょう
他方、
双方とも
だが、専属騎士達の表情は極めて
「
「すまない、ジクス…… 指揮を
「レオは何も悪くない、元々の計画が無謀なだけ…… 貴方、馬鹿なの?」
「いや、別に責めたい訳じゃねぇよ」
やれやれと頭を
「気持ちは嬉しいが、部隊長に一切の責任が無いなんて
「………… ん、貴方がそう言うなら従う」
一拍置いて隊内で揉めても仕方ないと判断したのか、エルネアは
その様子に自身の組んだ魔導士と顔を見合わせたジスクが呆れ、苦笑いを浮かべたところで城内から
「さて、俺は少しハイゼル様のお叱りを受けてくる」
襲撃部隊の帰還を知った侯爵の呼び出しに応じ、レオナルドは失敗の泥を被るのも仕事だと配下達に言い残して歩み去っていく。
この期に及んで待たせる事はできず、足早に駐騎場を抜けて城門へ向かえば、その
「こんな場所で何をされているんですか?」
「
騎士達を纏める立場上、城内に専用の職務室を持つ事もあり、騎体工房から出向く相手に先んじていた
「失敗です、申し訳ありません。十分な成果を上げられずに預かった新造騎体の内、四騎を失いました」
「…… そうか、ご苦労だったな」
苦虫を嚙み潰したような表情のヴァルフが反転して歩き出し、
然したる時間を要さずに辿り着き、許可を得て入室すると頑固そうな初老の領主以外にも、やや不健康なまでに色白い肌を持つ妖艶な美女が同席していた。
腰まで届くような長い白髪を微かに揺らして振り返った彼女が微笑み、色素の薄い瞳で見つめてくる中で、リグシア侯爵ハイゼル・バレンスタインが口を開く。
「先ずは報告を聞かせてもらおう」
響く言葉に他領での襲撃を指揮した青年将校が進み出て、騎士長に目配せして確認した後、執務机の椅子に座す侯爵に一礼する。
「失礼致します。先日、夜闇に紛れて実行した中核都市ウィンザードへの襲撃ですが……」
事実を包み隠さずに伝える事しかできず、東西の防壁門を破壊して周辺へ与えた被害、大通りに於ける敵方との遭遇戦など詳細を語るに連れて…… 聞いていた侯爵の機嫌が目に見えて悪化していく。
「…… つまり、陽動は成功したにも関わらず目的を達する事無く、女狐如きの
ましてや薄汚い存在が多大な戦力を保有するなど許されず、あるべきアイウス帝国の姿に戻すため密かに行動したのだが…… 全ては失敗に終わってしまった。
「不甲斐ない結果となり、申し開きも御座いません」
「くッ、どれだけの資金と時間を投じたと思っているんだ、この
怒りに任せて侯爵が投げつけた
「侯爵様、お怒りを鎮めてください、“
「現実には
「あら、そうでしたか」
小首を傾げて微笑んだリグシア領における騎体開発の責任者を
「お前は悔しくないのか、自ら設計したリグシア製の最新鋭騎が女狐の騎体に
「いえ、私の
しれっと責任は至らぬ操縦者達にあると転嫁しながらも、ファウと呼ばれた女性は言葉を続けていく。
「それと今回のような
「
話の行き先を変えるべく騎士長のヴァルフが口を挟んだものの、武官達が気付きにくい部分で既に事は始まっており、皇統派や中立派の貴族連中への根回しなども徐々に進められているのが実情だ。
「事前に地固めした上で機を見て判断する。女狐をこのまま放置するのは危険に過ぎるからな」
現在は西部戦線に投入されているゼファルス領所属の
実際にそうなる可能性は低いのだが…… どこか異質なニーナ・ヴァレルに疑心暗鬼を募らせた侯爵は焦燥を抱いており、手が付けられる段階で気に入らない彼女の戦力を削って、自身が優位に立たねばという歪んだ思いに囚われていた。
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