第34話 さすがお兄様です!
因みに襲撃側が防壁を廻り込んできた経緯から、反対側の大通りで魔法の砲火を浴びている騎士王達と異なり、防壁門が破られた事を契機に始まったのは近接戦闘である。
『貴様らぁああぁッ!』
壊れた壁材の破片で潰れた家々、周囲に散見される衛兵隊や領民の死体を見たクラウソラスの専属騎士が逆上し、路上に転がった板金扉を踏み越えて突撃していく。
『落ち着けッ、ダニエル卿』
『多分、聞こえていませんよ』
冷静な妹の声を耳元で聞きながら、先走った他国の騎士を援護するため、ロイドは僅かに遅れて騎体を走らせた。
疑似眼球が捉えた視界の先では、味方の騎体が慣性の勢いを乗せて振り抜いた鉄剣に応じ、細見の敵騎体は自身が持つ剣の横腹に左掌を添え、上段に
(見掛けよりも
少し警戒度合いを引き上げた銀髪の騎士が大小二つの鉄剣を構え、切り結んでいるダニエルの騎体を狙い、斜めから刺突を喰らわせようとした別の敵騎体目掛けて斬り込んだ。
『ちッ、簡単には殺らせてくれないか!』
途中で攻撃を中断した相手は
わざと防御が間に合うように大振りされた右手の長剣は本命に
『
『くうッ』
紙一重で身じろぎして装甲部分に刃先を滑らせた敵騎体に対し、僅かに体勢が崩れた隙を突いて、彼は倒れ込むように
『
悪態を吐いた敵方の専属騎士はバックステップで一定の距離を取ったものの、それも強引な攻めにより選択を迫られた結果のひとつである。
間髪入れず、開いた空間にロイドが騎体を踏み込ませ、味方のクラウソラスと交戦している
『うあぁッ!?』
『くぅうッ』
死角から飛んできた鉄拳に後頭部を強打され、人工筋肉を経由した感覚共有で操縦者達の意識が瞬断し、騎体ナイトシェードが棒立ちした無防備な姿を晒した。
『うぉおぉおお―――ッ!』
絶好の機会を逃す筈も無く、鉄剣を腰だめに構えたクラウソラスが身体ごと体当りして、自重と速度が乗った刃先を胸部装甲に埋め込み、抉るように動かして止めを刺す。
『あぁ… レイナッ、畜生が!』
同胞が討たれる
その瞬間、轟音と
『ぐッ、何なんだ一体、俺の目がッ』
悪態を吐くダニエルの声が騎体の発声器から響き、警戒する銀髪碧眼の兄妹に届くのみ。徐々に視覚が回復して巨大騎士の疑似眼球で周囲を見渡せば、敵影の姿は
『…… 撤退したか、それにしても注意すべき兵装だな』
『うぅ、兄様~、涙が止まりません』
愚痴り出すエレイアを
その頃には先んじて東門の戦闘も決着しており、深夜に行われた襲撃事件は相応の被害を出して終わりを迎えた。
ただ、第二波がある可能性も否定できず、偵察斥候小隊と入れ代わりで戻ってきた騎体を収容した工房内では、整備兵に含まれる技師や錬金魔術士らが忙しなく突貫作業に取り掛かっていた。
「よしッ、防壁西門から帰還したベガルタは特に損傷してないぞ!」
「ありがとう御座いますッ、ロイド卿!!」
『何やら凄く感謝されています、さすがお兄様!』
『ん~、間違っては…… 無いか』
仕事が省けたと喜ぶ整備兵達の出迎えと誘導を受け、ロイドは壁際まで騎体を歩かせて、片膝を突いた駐騎姿勢で待機させる。そこに二台の高所作業車が取り付き、念のためか技師たちが各部のチェック作業を始めた。
『少し休んでおこうか、エレイア』
『はい、万一もあり得ますから』
同意した彼女が疑似眼球を通して、ちらりと様子を
あの状態では再度の襲撃等に即応できると言えないため、有事の際に駆り出されるのは彼女らルナヴァディス兄妹の可能性が高い。
『それにしても…… クロード様は賊に手を焼いたようですね』
『僕らも近接する前に出くわしていたら同様だよ、両側を建物に挟まれた直線的な街路で躱す余裕も無く、敵方の魔法攻撃を喰らう羽目になる』
仮に上手く回避したとしても射程範囲を
(正直、僕は
何気に過酷な戦闘を乗り越えた故、多少の同情を含んだ視線を仲が良い騎士王達に向けると…… 工房に姿を現した御令嬢と話すため、一度騎体から降りたところだった。
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表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/1177354054893401145 )
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