第28話 こっちはお腹減ってるのに……

「もしかして、結構なSF好き?」

「日本の空想科学小説とか、そんな話が多いんだよ」


「それも興味があるけれど、今は続きを優先しましょう。もし、取り返しがつかない程に世界の進む方向性が変わってしまったら…… どうなると思う」


 統合できない程に分岐ぶんきした世界は連続性を失う訳だから、元々属していた時空連続体から放り出されてしまう訳で、その結果として行きつく先は……


「並行世界として幾つもの可能性を手繰り寄せ、別の時空連続体になるとか」

「うん、私の意見とおおむね同じ、恐らくこの世界はそこに属した地球よ」


 思えば初日にレヴィアから林檎酒シードルを貰った時、林檎りんごが存在する事に違和感があったし、以後の食材もたまに見たこと無いのが混じるくらいで地球の物と変らなかったが…… にわかには信じがたい。


「ニーナ殿、言い切れるだけの根拠はあるのか?」


「大気の組成そせい、月と太陽の存在と位置関係、他にもあるけど地球じゃない確率は天文学的に低いわよ、どこで道をたがえたのか魔法なんてものまであるけど」


 暫時ざんじ、瞑目して現状までに体験してきた諸々もろもろかんがみれば、精神的には抵抗感があれども、彼女の言葉が妥当だと思えてくる。


「まぁ、やるべき事は変わらない、受け入れてくれた皆の為に刃振やいばふるうのみだ」

「そういういきな考え方は好きだけど、私は帰りたいわ」


「…… 取っ掛かりになるようなモノはあるのか?」

「えぇ、貴方が持ってきてくれた精霊門の欠片、本当に感謝しているのよ」


 微笑みと共に謝意を示し、彼女は残り少なくなった天麩羅てんぷらに手を伸ばした。俺も次はいつ日本食を食べられるか分からないため、遠慮なく野菜のそれを摘まませて貰う。


 それ以後は雑談も交えつつも箸を進め、彼女が膝元である中核都市に暮らす稀人まれびと達の事も考えて帰還手段を講じている事などを知り、相手の理解を深めていく内に出された料理を完食した。


 最後に冷めたお茶を啜ってニーナと一緒に外へ出ると、待ち構えていたレヴィアからジト目で睨まれてしまう。


「遅いッ、こっちはお腹減ってるのに…… 何食べて来たんだよぅ」

蕎麦そば天麩羅てんぷらだ」


「むぅ、なにか美味しそうな予感がする!」

「城の食堂で護衛役の食事を用意させているから、早く帰りましょうか」


 空腹を訴える赤毛の少女にくすりと微笑んだ御令嬢の言葉に従い、警護役のアインストが指示を出して、裏側の勝手口を固めていた騎士達を呼び戻す。


 素早い動作で路地裏から姿を現した彼らの中にはエレイアが指揮する準騎士達も混じっていた。


「撤収ですね、クロード様」


「あぁ、警護をありがとう、それにロイドにも感謝だな」

「気にしなくて良いよ、これも僕の仕事だからね」


 銀髪碧眼の兄妹に軽く礼を述べている間に、双方の人員がそろっている事を手早く確認したアインストが仕える領主のそばへ寄り、手短に言葉を交わしてから小城へ向けて歩き出す。


 此処ここへ来た時と同じく先行するゼファルスの騎士達に追随ついずいし、頭を下げた源蔵に見送られながら、俺達は帰還の途に着いた。


 なお、護衛役に用意されたゼファルス領の伝統な肉料理や、卵白と牛乳を使ったパンナコッタがお気に召したようで、食堂を出る頃にはねていたレヴィアの機嫌は直っていた事も言及しておこう。


 そして翌日の午後、巨大騎士ベルフェゴールとベガルタの二騎を持ち帰るため、指定した属性の魔導核に換装するまでの空き時間を利用し、俺達は同じく手持ち無沙汰だったルナヴァディス兄妹を誘って街中へ繰り出す。


 当初は少女二人と妹に甘すぎる優男が連れ合いなので、多数決によりデザートを食べられるカフェテリアを物色していた筈だが…… 中央通りに並ぶ装飾品や小物を扱う店舗に好奇心旺盛なレヴィアが引き寄せられて、何故かイザナへの手土産を選ぶ羽目になっていた。


「ん~、これなんか似合いそう♪」

「では、それを……」


 彼女に勧められた微細な装飾が施された金の髪飾りを購入しようとするも、横合いから覗き込んだエレイアに駄目出しをされてしまう。


「言われるがままに決めるのでなく、イザナ様を想って選ばないと気持ちが伝わりません。それでは礼節に反しますよ」


「…… なぁ、ロイド、この黒いチョーカーはエレイアの銀髪に映えると思わないか?」


 俺がおもむろに細めのベルトチョーカーを手に取り、銀髪碧眼の騎士に勧めると意図を察してくれたのか、悪戯いたずらっぽく笑って頷いてくれた。


「そうだね、買ってみようかな」

「え、良いんですか!? お兄…… あっ」


前言をひるがえすような行動に赤面してうつむいたエレイアに対し、ロイドは店主に銀貨数枚を手渡して、購入した黒いチョーカーを直接受け取って妹の首に付ける。


「うぅ、ありがとう御座います」

「ん、揶揄からかってしまったおびだよ」


 微笑しながら優しく頭を撫ぜるその姿に、蚊帳かやの外となった俺とレヴィアは反応に困ってしまう。


「結局は誰が買ってくれたかなんだね、クロード」

「何やら現金げんきんな話だな……」


ただ、そう思えば自分に自信が持てなくても選ぶことができると言うもので、迷った末にイザナに合いそうな銀細工のバングル型カフを俺も購入した。



------------------------------------------------------------------------------------------------



※ 少しでも面白いと思って頂けたら

表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/1177354054893401145 )

の左上部分から青色の★で応援してやってください。創作活動の励みになります!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る