第8話 波状攻撃
他兵科混成での警戒は演習計画に無いが、空撮映像から物資集積の跡が見られた為に我々が下がれば警戒線に穴が空く。後方から1個歩兵中隊と補給物資が空輸されてきた。
中隊長は中尉の為、派遣前に昇進した、大尉の俺が指揮を執ることになる。
「ロシア帝国陸軍中尉ミハイル・イリイチ・ウルガノフだ。」
「大日本帝国陸軍大尉になった綾戸翔也だ。叩き上げと聞いている。」
「尻に殻の付いたガキの面倒か。保育士は居ないのか?」
「残念ながら我々がその保育士になる。」
溜息をつき肩をすくめるウルガノフ中尉だが彼は我々日本軍の中でも有名なロシア軍人だ。7年前にソ連軍の大規模な領土侵犯が発生した際、当時軍曹だった彼は国境部の都市を小隊長の戦死後指揮を取り敵旅団から2週間に渡って死守し、日本軍部隊の来援まで凌いだ英雄であり今年42歳になる叩き上げの中尉だ。
「一応後方司令部からの連絡だ。あと30分後に迫撃砲三門と追加の歩兵小隊が到着する。それに5分くらいで砲兵小隊から連絡が入るはずだ。155mmの自走榴弾砲の支援も得られる。ま、攻勢があればの話だが。」
淡々と語る彼の背後で着々と有刺鉄線などの防衛準備がなされていく。彼が名を挙げた防衛戦時の部下からなる小隊にロシア帝国全軍から集められた精鋭古参2個小隊。
約150名の選抜独立親衛中隊。
いい物を引いた。
†
俺はロシア帝国陸軍の中尉である。満州方面軍総司令官の息子が装甲部隊を率いて支援に来ると言うことで彼が無能か否かを確認する様任が下った。
事前に送付された資料によるとかなり若いエースらしい。軍上層部から満州方面軍は半独立状態にあり、政府最上層と密接な関係にあり、首相以下保守右派政治家達から政治的信頼の厚い軍人。
プロバガンダにも起用され、広報官としても使われている。
「…無能ではないようだ。指揮もまともで評判の最悪だった装甲兵を上手く纏めている。」
「その程度なら送られても構わんな。」
「っ!」
一切の気配を気取らせず、背後から報告文を読まれた。
「気にするな。俺はこう言うのに慣れてるからな。それと、中隊員を起こせ。戦術衛星からの情報だ。」
昼間とは異なり、ロシア語での会話に少し驚きつつも瞬時に切り替える。
「規模は?」
「師団が2に旅団クラスが3。」
「命令は?」
「聞かなくとも分かるな?死守だ。」
ニヤリと笑い答える大尉殿は恐ろしくも古参兵の俺でも頼もしく思えた。
†
「さぁ、諸君集結完了ご苦労。規定の速度を超えた集結整列完璧だ。さて命令を下す。敵軍の攻勢を凌ぎ死守せよ。
まぁ安心し給え、榴弾砲の支援に迫撃砲が支援を行う。後方からも長距離ロケット砲群の支援を受けられる。
「了解しました!」
「総員、配置につけ!」
105mmセミオート砲は視界に入った瞬間火を噴く。同時にバーレイグ中隊の本部付の古参兵小隊が即応し敵前衛の1個大隊を鴨打にする。ワイバーン中隊もほぼ同時に統制された射撃を開始する。遅れて、というか今更と言うか前衛大隊の殆どが倒れた時点で新兵共が射撃を始める。
「遅い。」
160mmの迫撃砲が頭部構造を弾き飛ばし、自走砲やロケット砲弾が炸裂し随伴の歩兵ごと耕した。
「…敵部隊視認。接敵。」
確実に1発1発、頭部構造や操縦席のハッチを狙い、行動不能に持ち込んでいく。
『左翼から旅団規模!』
『右翼から師団規模!』
「候補生諸君、左翼に、本部付小隊右翼で遅滞戦闘だ。ワイバーン中隊、喜べ俺と師団多数を撃破する。」
『『『了解』』』
肝が座ったのか、座らざるを得なかったのか、手早く動くヒヨコども。
パニックを起こされるよりはマシだ。
『HQより、バーレイグ。そちらに装甲砲兵が到着した。指揮権を与える。コールサインはフロント。』
「フロント大隊、砲撃だ、正面の敵に撃て。」
『了解した。英雄バーレイグと戦える事感謝しよう。』
怜悧な女の声。フロントと言えばロシア軍では無く、日本軍の即応遠距離戦闘群の一角だったか。なんにせよありがたい。
『こちら、列車砲。砲撃準備が出来た。目標指示を頼む。』
手早く、座標を送付する。
「列車砲の支援が始まる。友軍誤射に留意せよ。」
バラバラに了解の意が帰ってくる。
『アルファ03よりバーレイグ!アルファ02被弾。指揮権を引き継ぎました。』
「02は?」
『通信アンテナにダメージを受け極近距離しか通信出来ないのと左腕を失った以外に損耗なし。射撃しつつ下がりました。』
「上出来だ。03生き残れ。褒美を用意してやる。」
これだ。危機的状況にて訓練以上の能力を発揮するものは少ない。
中破しつつ後退に成功した佐原候補生も中々優秀だが、それを引き継いだ九重候補生も優秀だ。
「ガキ共だから、簡単にやり直しが効く。」
ある意味羨ましい。
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