第5話 大日本帝国統合参謀本部
大日本帝国統合参謀本部とは魔境だ。参謀本部で装甲戦術課を率いる私、小坂田奈緒にとってもそれは変わらない。
装甲兵士官はその絶対数の不足から常に促成教育気味であり昇進も早い傾向にある。私も28歳で帝国陸軍にて中佐の階級を得て現在奉職している。
本日の午後、満州方面軍から私が部隊長をしていた頃の大隊員綾戸翔也中尉が来る。会うのはインド時代からだからもう二年ぶりだろう。
第47試験装甲大隊はインドで私と綾戸を残して潰滅した。インドで第2世代初期型の試験中に、ソヴィエト連邦軍の1個装甲連隊に攻撃を受けた。当時は39口径105mm砲で、ソヴィエト連邦軍の主砲は45口径122mm砲で、射程距離も装甲も適わず一方的に鴨打ちにされた。
飛び上がった彼の機体は上部装甲に2発徹甲弾を放った。隊長機を撃破すると、そのまま感覚器とセンサー、レーダーの搭載される頭部を次々と破壊して行った。
彼は援軍に駆けつけた第56装甲試験大隊の到着までに9機を撃破し7機を私と共同撃破した。私の個人の成績は4機。歴然とした差だ。
思い入れのある部下でもある。
「大佐殿。加藤少佐、綾戸中尉、大柳准尉がいらっしゃいました。」
「通せ。」
「久しぶりです、小坂田中佐殿。」
「久しぶりだ、加藤少佐。」
加藤を私は好きではない。私自身が保守的なのもあるが、独自理論と独自の判断で動く彼女は規律と秩序を乱す。
コレで無能であれば排除も容易なのだが。残念な事だ。
「中尉も久しいな。掛け給え。」
「お久しぶりです。失礼します。」
中央に加藤が腰掛け、その左右を綾戸と准尉の階級章を付けた若い女性士官が座る。
「小坂田中佐、会議前に呼び出した理由はなんでしょう。」
「綾戸中尉に本国政府からの要望がある。エースとして軍内部ではなく一般で軍広報に貢献して欲しい。」
「プロバガンダですか?」
「そうだ、中尉。現在、世間では帝国軍廃止論者が蔓延っている。」
「すいません、それは…?」
「准尉、簡単に彼らの主張をまとめると帝国軍の存在が周辺各国やひいては枢軸陣営各国との対立を産み、世界に争乱が齎されるとの事だ。」
「そんな、酷い…」
「大柳、現行憲法では言論の自由は保証されている。」
従兵が紅茶を3つと珈琲をひとつ運んでくる。珈琲は綾戸の目の前に残りを丁寧に運ぶ。そのまま黙って後ろに下がる。
前任者は此処で口を挟んでくる無能だった。その点、彼女中谷心音曹長は拾い物だった。
「帝国憲法は終戦後より民主的に改正された。故に特別高等警察等も解体され、国家特務警察へと改組された。帝国軍は不要程度ではテロを行った訳でも無く取り締まりは不可能だ。綾戸中尉、やってくれるな?」
少し悩み、首肯する。
「ご命令とあれば。否応はありません。」
†
技研との会談では現行の装甲猟兵39口径105mm砲から71口径120mm砲への換装、色々な地点に対応する様に迷彩の換装の簡易化、機動力を向上させつつの重装甲化が決まった。
「これより会見を始めます。初めに軍広報局より大日本帝国陸軍の装甲猟兵エース綾戸中尉をお呼びしております事通知させていただきます。」
「ご紹介に与りました、帝国陸軍中尉を拝命しております綾戸です。会見と言うばでは素人なので記者の方々の質問に答える形としたいと思います。時間は無制限、質問にはどんなに関係無くとも軍機に触れない範囲でお答え致します。」
「毎朝放送からの鼎です。綾戸中尉の所属は具体的に?」
「現在は満州方面軍隷下独立装甲教導師団で中隊長を務めています。以前はインド方面軍隷下に配属されています。」
「ありがとうございます。では貴方がエースの功績を打ち立てたのはインドないしは満州との認識で間違いは無いとの事でよろしいですか?」
「はい、インド方面軍でソヴィエト連邦軍の装甲猟兵を撃破してエースとなりました。」
「
「誰かと言う事は軍機に抵触しますのでお答え致しかねます。」
「では、質問を変えます。中尉は軍に入られて思った事や実感した事はありますか?」
「そうですね、特に装甲部隊の士官の程度の低さは真剣に憂慮しています。」
「ありがとうございます。コレで質問を終わります。」
挙手した女性記者を司会の下士官が当て立ち上がると暫く質問し着席する。
「NHKより参りました、朝永と申します。中尉は軍の良い所はなんだと思われますか?」
「そうですね、やり甲斐でしょうか。自らに与えられた仕事に対してのやり甲斐が違うと思います。その分掛かるプレッシャーも違う訳ではありますが。」
「綾戸中尉のお父様は満州方面軍司令官の綾戸大将閣下ではありませんか?」
「はい。そうですよ。」
「失礼ながらその若さで中尉となるとお父様の権力を傘にきてとも取れるのですがそれはどうなんでしょうか?」
「軍内部の告発を受け特務警察の捜査を受け事実ではない訴えであったと認められ裁判にも勝訴しております。」
「成程、失礼しました。」
NHKの彼は俺の正当性を示す協力者だ。
「旭新聞の梁川です。現在規模を拡大している帝国軍不要論者についてお聞きしたいことが。」
「私は賛同は出来ません。」
「帝国軍の存在が各国間の対立を煽って居るという主張に対してはどうお考えでしょうか?」
「4万7421件の領空侵犯に9864件の国境侵犯。それに全て対応して来たのは帝国軍であり、我々軍人です。我々大日本帝国軍は全ての国民の安全と国家の安全保障を守る為に存在しています。」
「それは軍の見解として不要論者に対抗するということでしょうか?」
「我々は不要論者であろうと無かろうと国民である限り守る。それが我々です。」
「軍は差別をしないと言う訳ですね。それでは、大阪の駐屯地でシュプレヒコールを挙げていた女性3名と男性2名を憲兵が排除したと言う事件にはどう考えられているのでしょうか?」
「昨年の八尾駐屯地の駐屯地祭でのお話ですね?」
「はい、その通りです。軍部は守るべき国民を排除した件について如何お考えでしょうか?」
「当該憲兵は駐屯地祭の観客から怒号をあげ多数で駐屯地を包囲する等の行動から恐怖であると申告があった事、また、大阪北部地震の際に当該駐屯地のヘリコプター部隊が多数物資輸送等で救難に貢献した事から住民の感情を考え来賓として参加されていた市長閣下の方から排除要請が出たこと、また憲兵隊には駐屯地周辺で業務を妨害するような行動お呼びスパイ等には逮捕拘禁する権限が付与されており、それは正当な権限に基づき行使したに過ぎません。」
「それでは質問を変えます、先程帝国軍の災害時の貢献に触れられましたが北海道地震の際海軍艦艇に住民感情を考えるなら国旗と海軍旗の掲揚を取りやめて欲しいと現地の町長から要請があったことをどう考えられているのでしょうか?」
「16世紀以降、国籍旗を掲揚していない艦船は海賊船として撃沈しなくてはならない事を国際法が定めております。更に平臥改正海軍法として作戦行動中の全艦艇は旭日旗及び日章旗の掲揚を義務付けられております。故に法令遵守した結果であり、法令違反となる要請に応えることは出来ないと返答した次第でございます。」
「ボロを出しませんね。」
「何分素人な物で非常に緊張しております。」
質問を矢継ぎ早に飛ばしてくるのは旭新聞の記者。反政府的である事をプライドと持つ新聞社だ。
若く、イケメンなエースと中年で見た目の醜い記者。生放送されている以上、国民の目にはどちらが悪者で、善人に見えるだろうか?
自明の理だ。
「皇軍なんて名乗ってるが人殺しの集まりじゃないか。」
「誰だ?名乗れ。」
「共産党機関紙の者だ。貴様らが今まで何人の人間を殺してきた?」
「我々は国家の為に戦闘に殉じているのみです。それを問うならば共産主義は一体幾らの人間を殺してきたのでしょう?」
反政府的更には反軍主義は記者に多い傾向にある。曰くリベラルで反ファシズムだそうだが。
「軍人なんてのは人殺しだろう。我々は革命の為にプロレタリアートの解放の為に必要な犠牲だ。」
「革命のための必要な犠牲?大いに結構だが、我々を人殺しと呼ぶのは辞めて貰おう。憲兵隊拘束しろ。」
こういうのを釣るために態々長々と応対していたのである。もう少し遅ければ別の手を打つところであった。
「失礼、他になにかありませんか?」
「週刊誌の者です。中尉の事についてお聞きしたいのですが。独自のインタビューを申し込みたいのですがよろしいですか?」
「構いませんが念のため広報局に確認をとって頂きたい。」
これでましになるだろう。
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