第4話 本国

警戒訓練、緊急時孤立サバイバル訓練。


「須毛原さん、何故私達は携帯出来る質量が桁違いな強化外骨格を装備してて食べられる虫等の見分け方や実食がしてるんでしょうね?」


「俺にもわからん。サソリは意外といけるな。」


「文句を言うな。食えんものは出していない。」


「食事は食べる事が可能かそうじゃないかではないと思うんですが。」


「あんまり言うなよ。そろそろ迎えが来るぞ。」


「座標は送信した。第716輸送群が来る。」


解体を始めて30分程。俺の指揮下にあるA中隊は既に完了し、BC両中隊の手伝いをしている。偉そうな分だけあってそれなりには使える。


「来たぞ。」


「綾戸!貴方の入れ知恵ね。手を回したんでしょ。」


着陸したVTOL輸送機から飛び出してきたのは我らが大隊長加藤少佐。


「なんの事でしょうか?理解致しかねます。」


勿論の事しれっと返すが当たり前だが信用はされていない。


「いやはや、野戦時孤立サバイバル訓練は素晴らしい。いい時間でした。」


新米の士官候補生諸君を五人一纏めで放し飼いにしただけとも言うが。


「…はぁ。無駄ね。帰るわよ。」


「了解しました。乗れ!」


「どうだったの?」


「成功かと。1番のゴミを排除した事により他が纏まりましたし、半強制的に協力、協調せざるを得ない今回で戦う前にてんでバラバラは避けられるかと。」


私と綾戸中尉の他には須毛原中尉と綾瀬中尉。その他私の小隊員のみが乗る機体の中で綾戸へと問いかける。


「成程ね。綾戸の見解ではこれからどう教練すべきかしら?」


「そうですね…まずは小隊を作っての意思疎通からでしょう。指揮階梯合意を作らないと。その後には基礎野戦演習、他兵科との共同での拠点攻略演習、拠点防衛演習に夜戦演習の順番ですかね。取り敢えずは。後は適宜判断し削ったり増やしたりしつつ山岳戦や砂漠、雪原や凍土での演習でしょうか。」


妥当かしらね。


「そこからね。中隊毎にやっておいてちょうだい。綾戸中尉は私と共に本国へ出張よ。」


「内容は?」


「本国の統合参謀本部が危機的状況の対応策を考案する為意見が欲しいのと、第三世代開発の現場の声が聞きたいと言う技研の要請よ。」


「須毛原ではダメなのですか?」


不服そうね。この時期に部下達から離れるのは無責任だと綾戸は考えるのでしょうね。


「須毛原中尉は今回の件には向かないでしょう?」


アレもエースと言う点では変わらないのだけど良く言うと感覚のタイプだからねぇ。

ただ単に馬鹿なだけとも言うけど。


「代理は?」


「私の小隊員が着くわ。それなりには優秀な筈よ。貴方には適わなくともね。」


「了解しました。他に事項は?」


「綾戸、候補生から将来指揮官として最も優秀だと思った者を連れてきなさい。」


「大柳ですかね。」


へぇ、かなり気に入ったみたいね。


「根拠は?佐伯准尉でも良いんじゃない?」


「思うに佐伯は副官ないしは参謀向きですね。案を出すし機転も利きますが、決断は遅いし自己の案に固執する癖がある。それに比べ大柳は他者の意見もとれますし、何よりしっかりと決断できる人材です。第1小隊は大柳を小隊長、副長を佐伯にするつもりです。」


「後で報告書を提出して頂戴。」


「勿論です。」


彼の目はかなり良い。文字通りの意味でも目利きという意味でも。


「そろそろね。解散後直ぐに用意をして頂戴。大柳准尉の物は買えばいいわ。経費で落としなさい。」


軽い振動と地面に触れた音。着陸が完了し、手早く大柳准尉以外を解散させた。


「大柳准尉、本国への出張への動向を命じるわ。今すぐ用意しなさい。中尉、必要物品は購入させなさい。貴方は準備は対して必要ないでしょう?」


「了解。大柳行くぞ。」


えっ、と小さく呟いた後慌てて綾戸を追いかけていった。


「綾戸にあの可愛げはないわね。」


容姿もさる事ながら、行動が一々女の私から見ても可愛らしい。綾戸は教えなくても充分所か一流に出来るから教えがいが無い。

苦笑しつつ私も自らの部屋へと戻った。


「綾戸中尉、私は何を持っていけばいいのでしょうか?」


「そうだな。基本的には身の回りの物で良いと思うが女性が何を持っていくかは生憎周りに居ない物で分からん。」


意外そうな顔をする。大概は意外そうな顔をされるがコネクションを作る為に会話をする事はあってもお互い必要以上に親密になる事は無い。

利益が無いからだ。


「失礼ですが彼女とかは?」


「いた事が無い。絶賛年齢=独身記録を更新中だ。」


「中尉もそんな冗談を言われるのですね。」


「俺も人間なのでな。」


基地内の通路を大柳の部屋へと向かいながらの雑談。

厳しいばかりでは部下は着いてこない。舐められない程度にぬる過ぎない程度に締めるのがコツだ。

無機質な床材は軍靴の音を良く響かせる。現在時刻は早朝であり人通りは少ない。警戒させない様、失礼とならないよう少々距離を空けつつ並んで歩く。


「個人用デバイスとタブレットは用意しておけ。暇だぞ。」


「中尉は?」


部屋の前に到着し俺は足を止める。視線で部屋へと促すと俺にどうするのかと問いかけてくる。


「俺は此処で待っている。」


扉の向かいの壁に背中を預けもたれ掛かると慌てて部屋へと入った大柳を見送る。


「准尉、シャワーを浴びておけ。其れくらいの時間は見込み済みだ。」


上擦った声で応答が聞こえる。

副視界オルタナに表示させた保存済みの資料を呼び出し読み込む。

元々俺は野戦将校、技研向けでも教導部隊向きでもない。エースである以上何かあれば直ぐに実戦部隊に復帰させられるだろう。

何も無ければ良いが何も無い前提で動く訳にもいかない。難しい所だ。

ドタバタと慌てて用意をする音が聞こえ、キャリーバッグに荷物を詰め込んで30分程で出てきた。


「済まないが途中で俺の部屋に寄る。」


「勿論どうぞ。」


装甲教導師団の部隊長らに割りあてられた部屋は候補生棟から徒歩数分ので到着する。

到着するといの一番にタオルを中途半端にしか乾いていない大柳の頭に掛けてやる。


「使え。」


「あ、ありがとうございます。」


その間に手早く荷物を纏める。野戦服から着替え、大柳の待つもう1つの部屋に戻る。


「先に向かっても構わない。シャワーを浴びる。」


「いえ、待ちます。」


確か、インスタントの珈琲があった筈だ。


「インスタントで良ければ珈琲がある。好きに使ってくれ。」


「は、はい。」


明らかに訓練時より緊張している大柳に違和感を覚えつつも着替えを持ち、シャワーを浴びに向かう。

数分も掛からない。あまり待たせることは無いだろう。

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