二話 士官食堂

満州方面軍もそうだが、軍隊という物の食堂は階級の高い物が使う物程美味いし更にいえば危険な地域の部隊程平時には良好な食事が与えられる。

満州方面軍は大将が3名、中将が9名、少将が33名。准将は69名。部隊長クラスは部隊の駐屯地で食事をする。基本的に新京に設置されている満州方面軍司令部には各師団長とその参謀長クラスが常在している。

満州方面軍は大日本帝国陸軍の他の方面軍より扱いは良い。満州に継ぐのはインド方面軍位だろう。

インド方面軍は敵国に直に接している為理解出来る。何故満州方面軍が優遇されているかそれは、大日本帝国の生命線を守るからだ。

日本の資源は石油は大きな所でマレー半島、インドネシア、そして満州にある。

天然ガスは極東ロシア、尖閣諸島だ。

極東ロシアと満州を防衛する満州方面軍が優遇されるのも頷けるであろう。

何が言いたいかって?単純だ。哀れな、腐ったミカンの中でも染まらなかった真面目な2人の少尉候補生が我らが方面軍首席参謀長殿に呼ばれる訳だ。その表情に宿るのは困惑と緊張。


「大柳候補生、佐伯候補生。落ち着け。何も取って食いはせん。」


「は、はい。あの…質問してもいいですか?」


「何だ?佐伯候補生。」


「私はが間違って無ければ、中尉殿は綾戸大将閣下のご子息ですよね?」


「そうだが。それが何だね。」


「中尉殿は21歳の筈です。士官学校は出られているはずですがどの様にして若く教導師団所属に?あと、呼び捨てで構いません。」


両名ともの目には好奇心が見える。若いとは良いな。言っても歳は1つしか変わらないのだが。


「そうか。佐伯、私はな第2世代型の開発が完了し、実戦運用を始める時にインド方面軍に所属していた。高校を出たあと直ぐに士官学校に入った訳だが、俺は元々士官学校で習うような事は父上に教えて貰っていた。既にその点で同輩達より一歩進んでいたわけだ。当時、統合参謀本部の国家戦略室長だった父上に対する忖度なのか俺のインド方面軍での独立装甲試験大隊への志願は認められてな。1年間をインドの戦場で経験を積み、本国の戦技教導隊配属を1年。去年から満州方面軍に配属され、1年間を学習と第一大隊A中隊の助教として勤務していた。」


中々異例な経歴だとは思う。


「エースが抜けてるぞ中隊長殿。」


いきなり、肩を叩かれて振り向く。声から分かっては居たが、B中隊長の須毛原勤すげはらつとむ中尉。俺の友人のひとりだ。


「相変わらずだな須毛原。出世はしたのに、性格は変わらないと見える。」


「エースですか?須毛原中尉殿。」


「おう、翔也はインド軍の第2世代型装甲猟兵ヴィクラント5機以上撃破のスコア持ちだからな。えーと?」


「大柳澪華少尉候補生です!」


「そうか、大柳。こいつの指導を受けられんのは得だぞ?日本軍で二人しかいないエース様だからな。」


「須毛原中尉殿、須毛原中尉殿は勤と言う名前でしょうか?」


「おう。どうした?」


「軍広報誌で拝見致しました。中尉殿もエースだったのでは?」


「こいつもエースだが、中尉殿って柄じゃない。単独行動、命令無視、規律違反とバディの俺がどれだけ庇ってやったか。」


「済まない。待たせたな。」


「いえ、参謀長閣下。」


一斉に4人全員が起立し敬礼する。


「座ってくれ。大柳、佐伯両候補生。これを受け取ってくれ。」


「最優秀候補生准尉昇格制度ですか。」


最優秀候補生准尉昇格制度。准尉とは優秀な下士官や長く務めてきた下士官に中継ぎや名誉として与える階級だ。准尉は1年後に少尉に昇進する規定がある。


「「ありがとうございます。」」


緊張から一転嬉しそうな表情を浮かべる。


「まだまだ餓鬼だな。」


「歳は変わらんだろう。俺もお前も21だ。」


「経験の差はでかいのさ。」


と嘯く。まぁ歳よりは幼く見えるがな。


「ところで中尉。梁さんとはどうなった?」


「お前…それ聞く?」


「勿論、出来たんだろう?」


「…まぁ。やめろよ恥ずかしい。」


「お前もまだまだ子供だな。」


「貴方が老成し過ぎなのよ、少しは動揺とか見せないと可愛げが無いわ。」


「加藤綾子少佐殿、お久しぶりです。」


我々第一大隊の指揮官加藤綾子少佐だ。少佐は独立装甲教導師団の師団長副官を兼務しており、師団長も後ろに立っている。ニコニコと微笑む師団長閣下は無口かつ、優しいと評判がいい。

現在、独立装甲教導師団の幹部が集まりつつあり、かなり目立っている。


「参謀長閣下、他にあったのでは?」


「おお、そうだ加藤少佐。第一大隊の諸君。何やら加藤少佐立案の特別訓練があるらしい。楽しみにし給え。我々は失礼するよ。」


立ち去った参謀長閣下が見えなくなった頃、不穏な笑みを浮かべる。


「少佐殿?」


須毛原が聞くがどう考えても遅い。


「A、B、C各中隊。総員第一大隊隊舎講堂に集結!動け!」


昼飯は抜きだそうだ。

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