満州編
一話 装甲猟兵教導中隊
「綾戸祥也中尉。君の新しい部下ははっきり言おう。ややこしい。」
1人は若い士官満州方面軍隷下独立装甲教導師団第1大隊A中隊長、大日本帝国陸軍中尉綾戸翔也。
「これは…俺に対する嫌がらせかと疑ってしまいますね。」
対する中年の士官。満州方面軍隷下独立装甲教導師団参謀長馳永見大日本帝国陸軍大佐。
そして馳大佐の後ろに立つのが満州方面軍司令官綾戸昌臣大日本帝国陸軍大将である。
横には満州方面軍首席参謀長山田省吾准将が並ぶ。
祥也に手渡された配属書は新たに15名の配属が通告されている。
全員が少尉候補生で2期目の。現在大日本帝国陸軍の少尉候補生教育課程は3年の3期制になっている。1期目は本国で操縦訓練を受け、2年間を前線に近い満州方面軍か中東方面軍配属で訓練する。その2年間の錬成課程彼らの面倒を見るのが俺という訳だが問題なのが候補生達だ。
15名の内2名の女性少尉候補生を除き全員が懲罰を受けている。
装甲部隊はエリート扱いでその士官とは言え資質に欠ける彼らが未だに士官候補生なのは圧倒的な指揮官不足が理由だ。
現在、教導部隊でも中隊で中隊長の俺中尉1名と3名の軍曹のみが正規軍人である。
「中でもこの2人は札付きですね。小城春香と山田龍悟。訓練教官に身体を売って不正を見逃させてたこいつと、父親が満州方面軍の首席参謀長だから周りが忖度してたこいつは女子高生を強姦か。本国とお父上からは?」
「翔也、私からも頼む。龍悟を処理しろ。」
「了解しました、父上。」
「我が息子の事ながら内地での悪行を知らなかったとはいえ申し訳ありません。綾戸大将閣下。」
つまり、本国からは事故として処理しろと言う憲兵司令部の要望。
今の憲兵総司令官は物事を騒がせたくないらしく、活動は活発で無い。ここのような外地なら野戦憲兵は方面軍や、軍司令部が指揮権を有するが内地では陸軍の自浄作用は全く働いていない。
「野戦憲兵隊を1ダース程使わせ下さい。矯正と処理を行います。」
陸軍旧来の悪癖だろう。綾戸大将閥の人間の息子である、山田何某に他派閥の者が処分しにくい。しかも綾戸大将、まぁ父上が息子の俺が言うのもなんだが出来た人物で優秀な戦略家だと言うのも有るだろう。52で若くして大将まで上り詰めた人間だ優秀なのは自明だ。
†
「整列!」
3名の軍曹が声を張り上げ15名の士官候補生を並ばせるが2名を除きダラダラとだらしない。
「クソのように無能な諸君。ようこそ満州方面軍隷下独立装甲教導師団へ。」
これから始まるのはお粗末な茶番の始まり。
「誇り高き大日本帝国陸軍少尉候補生とは思えないゴミクズの様な諸君、例えばそこの山田何某くん。A中隊は君達を歓迎しよう。」
そろそろ…か。
†
何もかもが最悪だった。大日本帝国陸軍本国の装甲教導兵師団へと配属へ志願しエリート街道を歩み始めたのが一年前。同期たちはエリートとは程遠い社会の底辺を漂う様な人間ばかりだった。1年して満州方面軍隷下の独立装甲教導師団第一大隊A中隊へと配属。そこの中隊長は若く、
着任後輸送機で運ばれ軍用トラックに詰め込まれ運ばれた満州演習場。並べるにもベテランの下士官が声を張り上げるも遅々として進まない。
軍隊とは思えない15分近く使用しての整列。始まった演説はいきなり私達を罵倒する物だった。
「クソの様に無能な諸君。ようこそ満州方面軍隷下独立装甲教導師団へ!」
高らかに告げるその声は一切の歓迎の意と今までどの教官も持っていた媚を売るような物は皆無だった。
「誇り高き大日本帝国陸軍少尉候補生とは思えないゴミクズの様な諸君、例えばそこの山田何某くん。A中隊は君達を歓迎しよう。」
あくまで悠然と傲慢にいや、本来上官が持つ権限を持って演説する中尉は手を大きく広げまるで芝居のような仕草で私達を見下ろす。
「手前!俺を誰だと思っている!山田省吾満州方面軍首席参謀長の息子だぞ!」
「山田何某くん。勿論知っているとも。俺を誰だと思っている。貴様らの上官殿だ。サー・イエス・サーも知らないのかね?軍隊の基本だ覚えておけ。」
「なんなんだ!いきなり俺たちを罵倒しやがって!」
「一体何様なのよ!」
口々叫ぶ同期たち。唯一私以外で真面目だと思っている佐伯唯華はじっと下を向いている。自然と私も視線が下がってしまう。これらと同期で同じ扱いを受ける私達が恥ずかしくて。
「上官様だクソども。佐伯唯華候補生、大柳澪華候補生は胸を張りたまえ。我々は貴官らの様な候補生を求めている。」
「何をしている?中尉。」
副視界に表示される50代位の将官は綾戸昌臣陸軍大将。満州方面軍司令官と表示されている。
「父上!」
嬉々と強姦魔が叫んだ所を見ると満州方面軍首席参謀長殿らしい。中尉殿はどうなるのだろうかと焦りを私たち二人は共有する。
「はっ!上官に向かって罵倒した候補生を教育中であります。」
「そうか。中尉、彼らを誰だと思っている?」
「閣下と同じかと。」
「そうか。憲兵大佐、やれ。」
引き連れてきた憲兵達は四五式短機関銃を構えると銃口を強姦魔に向けた。
けたたましい銃声は地面に山田龍悟が倒れふすまで続き、綾戸大将が手にした四五式拳銃で眉間に銃弾を叩き込んだ。
「ふむ。整備不良の様だな。中尉、整備士は?」
「閣下、懲罰房の用意は完遂しております、新京の帝国ホテルの最上階のスイートに監視員として奥方と娘さんを送ってあります。」
「結構。よろしく頼むぞ綾戸中尉。」
「勿論です。綾戸大将閣下。」
ここで気づく。中尉殿と綾戸大将閣下は顔が似ていると。あまりの急展開に同期たちは腰を抜かし何も言えない。
「佐伯候補生と大柳候補生だったかな。私の息子が迷惑を掛けた。ほんとうに申し訳ない。昼食の時に中尉と士官食堂に来てくれ。君たちに朗報があるんだ。」
深々と山田准将閣下は頭を下げて去っていった。憲兵達は死体を片付けて綾戸中尉殿に敬礼し去って行く。
「というわけだ諸君。今日一日は休養を与えよう。俺も鬼では無い。そろそろ昼食時だ。軍曹、彼らを案内してやれ。佐伯、大柳両候補生。着いてきたまえ。」
壇上をおりた中尉はコートを翻して颯爽と新京近郊にあるこの演習場の士官用食堂へと向かっていく。私たち二人は慌てて中尉殿の後を追いかけていった。
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