第4話 さくらちゃん……

結局 ガソリンスタンドで 、ポリタンクに水を貰って、

エン故した車に入れてスタンドまで乗ってくる事にした。

極めて原始的なやり方だ。



スタンドの兄ちゃんが割りとメカに詳しくて、

「見てみるよ。」

と言ってくれたからだ。


「彼氏だか、知り合いだか知らないけどアンタも大変だねえ。」

と彼女に聞こえないようにスタンドの兄ちゃんは俺に言った。



エンジンが少し冷えたので 水を入れて、

なんとかスタンドまで乗って行った。



「こりゃあ…冷却水が漏れてるわ。

メルセデスじゃあ珍しく無いことだけどね。」


原因がわかり、JAFに連絡して指定の修理工場へ運んでもらう段取りを付けた。


その女性は羽振りが良いのか…

スタンドの兄ちゃんとJAFに

「これは料金とは別にお礼です」

と言って渡していた。


一通りの手続きが終わると、

彼女は当然のように俺の車の助手席に座った。


俺は その場では何も言わずに車をスタートさせた。



彼女は自己紹介から始めた。


名前を希美(のぞみ)と言い…

大学に通っている事、親は会社を経営してる事、

親から気の進まない結婚話を勧められている事など、まるで彼氏か、久しぶりにあった実兄相手のように話してくれた。



次の瞬間、彼女の頭が俺の肩にもたげられた。

【おいおい!大人しい顔して積極的かよ!

俺に近付いてくる女なんて所詮……。】


そう言いたい衝動に駆られて彼女の顔を見ると…

それはそれは天使のような顔をして眠っているのだった。



【そりゃそうだよな。いくら車を運転してるからって…

年若い女性が車のエン故に遭遇したんだからな】


まるで娘のように歳の離れた彼女を

心から愛しいと感じたのである。


俺は最初のサービスエリアに車を停めると

彼女が目を覚まさすのを待った。 


もう一度 彼女の顔を見ると天使の顔に見えた。 


この時間が永遠に続けば良いと思った。

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